セリフで語る銀英伝-使ってみたい編-

名台詞もあれば迷台詞もあるのが銀河英雄伝説ですが、日々の生活に使えるかは別にして、言ってみたいものもあれば機会があれば使いたいものもあります。

 

策士で陰謀家のルビンスキー。どんなに痛い所を突かれても余裕をもって答えるのが大物感を醸し出します。

「私に関してはその通り」

実際に言ったわけではないが、謀略の犯人とされた際に彼ならこう答えるだろうとの指摘で。

「人間は自分よりレベルの低い人間は理解できる」

愛人のドミニクに皮肉交じりの指摘を受けて。

 

皮肉屋でキザが似合う男シェーンコップは、常に余裕を持ちで戦闘でも口でも負けなしの男です。

「何も悪いことした事ないやつに30歳になって欲しくないね」

アッテンボロー提督が30歳を迎えようとした年に、シェーンコップを引合いに出して不条理だと文句を言った時に。

「安んじておまかせあれ」

第10次イゼルローン要塞攻防戦でメルカッツから要塞攻略の実戦指揮を命じられた余裕の敬礼時に。

 

褒める時は大きな声で、悪口を言う時はより大きな声でが家訓のビッテンフェルト。

「口は重宝だな。親を売るのも友人を裏切るのも、理由をつけようはあるものだ」

フェザーン弁務官ボルテックが帝国に与すると判った時に。

「奴と同行して天上に行くことにでもなったら、おれは奴をワルキューレの車から突き落としてやるからな」

軍務尚書オーベルシュタイン元帥に同行してハイネセンに降り立った時に、前を歩く本人に向かって。

 

他の提督の個性と比べると少し地味でも有能なルッツ。結構大胆な発言もありやはり若くして艦隊提督、上級大将にまでなった男です。

あのオーベルシュタインよりはやく死んでたまるか。おれは奴の葬儀のときに、心にもない弔事を読んで心の中で舌を出してやる

爆破事件で無事だったルッツが病院で見舞いに来たワーレンに語った時に。

「せっかくの機会だぞ。ローエングラム王朝の上級大将が、どのような死にかたをするか、卿らが死ぬにせよ、生き残るにせよ、見とどけていったらどうだ?」

惑星ウルヴァシーで皇帝襲撃犯達に囲まれ銃撃戦を展開しながら彼らに放った言葉。

 

有能すぎる軍務官僚のキャゼルヌは、皮肉な口調が特徴で毒舌を吐きます。

「あの男の下品な煽動演説を長々と拝聴しなければならないのは、徹夜以上の苦痛だが」

アスター戦没者慰霊祭での同盟政府最高評議会議長の演説を揶揄して。

「独身生活10年でさとりえぬことが、一週間の結婚生活でさとれるものさ。よき哲学者の誕生を期待しよう」

後輩であり元上官で戦友のヤンの結婚式で毒舌ぞろいのメンバー達と唱和して。

 

なお、これ全部を使うと、友人を無くすか性格破綻者と間違われるので用法はよく考えて正しくお使いください。

 

ヤン・ウェンリーの評価(帝国編)

 ヤン・ウェンリーという人物は、大きな業績と比較して個人レベルではそれに合わない外見(容姿、言動、雰囲気)であり、更には内面は二律背反(戦争嫌いで戦争を評価しない、に関わらず戦争が得意で最大の成果を上げている等)を常に抱えた「矛盾の人」でした。
 このため評価は様々ですが、公然の敵であった帝国側はある方面で一致します。

 「ラインハルトに匹敵する軍事才能」の持ち主です。

 ヤンを倒すことが最大の武勲であり、対峙する帝国の提督達は彼への称賛を惜しみません。一方で下記の三人は上記のプラスした評価があります。

・ラインハルト 面白い人物、自分の強敵、常に意識、戦いたい、断られても麾下に加えたい

ヒルダ 政略や戦略では行動範囲が明確で対応が可能、ただし戦術レベルでは知略の底が見えず恐怖の対象

・オーベルシュタイン 屈しない、媚びない、同盟の求心的存在

 三人ともそれぞれの立場でヤンを評価しています。

 オーベルシュタインは、ラインハルトに「ヤンは陛下の臣下にならない」と明言しているので、思考の過程は判りませんが、正確にヤンの性格を捉えています。同時に臣下となればロイエンタールやミッターマイヤーを凌駕してナンバー2になる可能性があるとまで評価しています。
 自分の手に余るとまで考えているのであれば、ヤンを処分する案を献策したのも納得できます。

 ヒルダは、これまでの行動からヤンの行動原理を把握しています。特に巨大な武勲とそれに憮然と眺める彼の姿などは、ほぼ正鵠を得ています。同時に自分が計りきれない戦術家としてのヤンについては恐れがありました。いたずらに軍事力を用いるべきでないとの考えと合わせて、ラインハルトに戦うべきでないとも進言しています。

 ラインハルトになるとより複雑です。姉と我が友以外に唯一こだわる対象。常に意識している存在。戦いたくもあり、仲間にしたくもあるライバル。なおヤンの死後、急に倒れることが増え、衰弱死、最後には死に至ります。

 ヤンがもし自分の評価を個別に聞いていったら、どれもこれも過大評価だと頭を描いて溜息をつくでしょう、「やれやれ」と。
 あとメックリンガー提督は学者肌芸術家であることから、少しだけ違った評価をしています。

ヤン・ウェンリーの偉大さは彼の予測範囲内においてのみ、敵に行動あるいは選択させる」

 つまりヤンは舞台監督で、彼の脚本で帝国の提督達が部隊の上で踊らされるのだと。芸術提督らしい表現であるとともに、イゼルローン要塞攻略や帝国の同盟侵攻作戦での連戦、そして回廊の戦いなどヤンが能動的に動いた戦いで見せたトリックの根底を的確に言い表してます。

 生前は同盟軍=ヤン、死後は共和制の象徴と帝国軍から最高の評価を得た男は、自分を評してこう言いました。

「我ながらだいそれたことをしているよ」

 誰よりもヤンを評価したラインハルトと配下の提督達。ヤン個人がほぼ語り合うことの無かった人々ですが、戦場で戦うことがある意味で、交流であったのかもしれません。

帝国歴489年の潔癖為政者の悪辣謀略について-皇帝誘拐事件-

 野心家でありながら清廉潔白で民衆に優しい独裁者ラインハルト。当然ながらそんなお題目は脚色で、彼の手は流血と陰謀で赤黒く染まっています。

 宇宙歴798年。帝国とフェザーンの共同作業である皇帝誘拐事件が実行されました。同盟への開戦の理由を作るための謀略で、誘拐犯の仲間である自由惑星同盟最高評議会議長の声明直後に、宣戦布告する用意周到ぶり。

 元はフェザーンからの提案とはいえ、ラインハルトはあっさりと乗っかることを選択します。策謀家のフェザーンの黒狐と手を組むのですから、ラインハルトもこの時点で十分黒いです。
 なお主導権を握ろうとしたフェザーンに対しては、「3勢力のうち2勢力が組むとき、必ずフェザーンが組む側だと思うなよ」と釘をさします。
 ついでフェザーンが実行犯を消すことを懸念してオーベルシュタインに監視ともしもの時の対応を命じます。もちろん利用するためで人道主義ではありません。
 さらには元帝国副宰相ゲルラッハもついでに、皇帝誘拐の共謀容疑で処断してしまいます。
 あと帝宮の警備責任者モルト中将を自死に追い込んでます。

 もう前段で真っ黒黒です。

 擁護するなら、ラインハルトは為政者としては信義を重んじる態度であり、大義名分が無ければ同盟に攻め込んだりは・・・あっ、その前にガイエスブルク要塞を送り込んでますね。

 そういえば、組んだはずのフェザーンは騙して、奇襲で占領して自国に組み込みましたね。ボルテックがルビンスキーを裏切ったとはいえ、これも悪辣です。

 えー、もう完全に帝国の悪の征服者です。

 それにしても同盟側は梯子を外された被害者ですが、一方で帝国の反動勢力であり人民を500年近くにわたり抑圧していた皇帝と貴族達と手を組む行為はまさしく悪役。

 人類史は「少数の善人と、それ以外の多くの悪人達で成り立っている」と感じさせる一幕でした。ちなみにこの件はラインハルト自身が中心となって計画を進めており、オーベルシュタインよりもラインハルトのほうがよっぽど黒かったです。

 

 互いに正義を名乗る悪同士の戦いの始まりとなった皇帝誘拐事件。続く侵攻作戦「ラグナロック」のきっかけで地味な面はありますが、二ヶ国の滅亡と銀河の統一に至る、まさしく歴史が動いた瞬間でした。

第9次イゼルローン要塞攻防戦に置ける同盟と帝国の駆け引き

 ロイエンタールとヤンが相対した第9次イゼルローン要塞攻防戦は、帝国のラグナロック作戦の一環として行われました。帝国はフェザーン方面への主力の侵攻をカモフラージュするため、陽動ではありますがイゼルローン方面に三万以上の大兵力を投入しました。この方面の総司令官がロイエンタールです。

 三個艦隊の兵力による包囲攻撃により、ヤンがロイエンタールの相手で手一杯となる一方で、フェザーン方面の先陣となったミッターマイヤーがフェザーンを落とした時点で、戦略的な勝負はついてしまいました。

 この主戦場ではない戦いが重要かつ興味深いのは、お互いに相手の戦略目的を理解(帝国はヤンをイゼルローンに足止めする、ヤンは艦隊を温存してイゼルローンから主戦場に向かいたい)しつつ、戦術面では知略の限りを尽くす二人の名将の戦いにあります。

 最初の注目は帝国側の初回攻撃です。

 ロイエンタールは「派手にやるのも作戦の内」の示威行動だと思わせつつ、艦隊の一部を動かしてヤン艦隊を要塞から誘い出します。誘い出されたヤン艦隊が要塞砲の射程範囲で態勢を整える前に、突進して混戦状態をつくりだしました。

 第5次イゼルローン要塞攻防戦で同盟が使用した並行追撃戦法と同様に、要塞からの攻撃を封じた帝国軍。初手でこれとは予想できず、ヤンはしてやられます。ヤンは総旗艦を囮にしてロイエンタールを前線に誘い出し、強襲揚陸艦で奇襲して白兵戦に持ち込む奇策を用いました。帝国軍の後退を促すに留まりましたが、同盟軍は危機は脱します。

 続いて帝国軍は少数の高機動集団による強襲を用います。二千隻の損害もありましたが、要塞にも確実に損害を与えます。これも単なる力押しではなく、帝国から増援を呼び寄せる(欺瞞)ための演出としての意味がありました。

 実際にイゼルローン方面への援護として出征したミッターマイヤーが、フェザーンを奇襲して無血占領に近い成功を収めました。

 なおフェザーン陥落後も要塞に対する攻撃は繰り返されます。

 年明けにはロイエンタールは、包囲網を縮めて第8次イゼルローン攻防戦でガイエスブルク要塞が鎮座した60万キロメートルよりも少し遠い目の、80万キロメートル付近に総旗艦を置いて攻撃を続行します。トールハンマーの射程圏内ですが、レーダー透過装置や妨害電波で総旗艦の位置は判りません。その上、要塞主砲の発射時は索敵能力が更に落ちるため、第8次攻防戦のミュラー艦隊のように密かに接近される可能性があり、適当に撃つわけにもいきません。

 それでもトールハンマーの射程圏内で指揮するロイエンタールは豪胆ですが。

 帝国軍からは敵の監視や指揮がしやすい距離、でのルッツの言う「いやがらせ」、またはロイエンタールが訂正した「あらゆる布石を惜しまず」の攻撃は、ヤンを閉口させます。
 ロイエンタールはヤンがイゼルローン要塞を放棄する可能性を予想しつつ、戦術的には要塞への攻撃を強化することで、ヤンを忙殺させて敵の行動(準備)を阻害する行動をとります。

 ヤンは事態の打開のため、アッテンボローの具申を一部修正した作戦を実行しました。結果、レンネンカンプ艦隊に損害を与えて、ようやく要塞離脱への環境を整えることができました。

 無事に離脱をはたしたヤンと一方で民間人を伴う離脱を追撃はしないロイエンタール。勝敗はヤンを釘付けにした上でイゼルローン要塞を奪還したロイエンタールと、目的通り民間人三百万の保護と艦隊の維持を成し遂げたヤンのどちらに軍配が上がるのか。

 それともランテマリオの会戦に間に合わなかったヤンの敗けか、イゼルローン要塞の仕掛けに気が付かなかったロイエンタールの失敗か。

いずれにしても当代の名将同士の要塞攻防戦は、11回に及ぶイゼルローン要塞攻防戦の中で珍しく勝敗が曖昧な戦いであったと考えます。

銀河を駆ける船の速度について

 現在の人類最速は人口惑星ヘリオス2の時速252,792km、秒速70.22kmです。これが千年以上未来の世界では、宇宙空間を自由に航行し、ワープを使えば数千光年の移動が可能となります。
 しかしあまり詳しい数値は無く、ワープも40Cと表記されるだけで具体的な跳躍距離は判りません。

 そこで少ない情報から色々と推察してみます。

 

 まずはワープですが、ヤンの第13艦隊が第7次イゼルローン攻略でハイネセンからイゼルローン回廊入口までの4,000光年を24日間で踏破しました。ヤンの中々悪くないとの感想とは別に、出来合いの艦隊でこの期間は十分早いとの評価です。

 単純計算で日数では1日180光年を移動し、ワープ回数では19回で平均210光年となります。ただし長距離ワープを8回、短距離ワープを11回との記述があるので、長距離を300-400光年、短距離を100光年未満の想定してみます。

・350x8=2800光年

・100x11=1100光年

 合計3,900光年で、大体この辺りがワープでの移動距離だと推察されます。

 

 次に通常航行ですが、具体的な数値はドーリア星域会戦で第11艦隊を第13艦隊が捉えた時に、第11艦隊の移動速度を算定した数値です。この光速の約1%の数値は恒星系内での限界速度に近いとのことです。

 光速の1%は秒速で約3千㎞、時速は1千80万km、地球から月なら1分40秒、火星までなら最接近時で7時間、太陽までは13時間50分です。内惑星系なら海外旅行の気分で移動できます。

 

 またアスターテ星系の戦いではラインハルトの艦隊と正面にいた第4艦隊の距離が2,200光秒、接触想定時間は6時間でした。同じ速度で移動しているとして6時間後に接触するのは現在位置から互いの中間となる1,100光秒の距離。すると一個艦隊は光速の5%で航行が可能となります。

 なおラインハルトは急進して第4艦隊と戦闘に入ったので、光速の5%以上の速度で襲い掛かったことになります。

 光速の5%は秒速で約1万5千km、時速で5千4百万㎞。地球から月なら20秒、火星までなら最接近時で1時間24分、太陽までは2時間46分です。

 恒星の影響が少なく、惑星や小惑星帯もない恒星系の周辺の宙域であれば、より早い速度での移動が可能となるということです。

 

 いずれにせよ、慣性制御により加速と減速時のエネルギーロスが極小なため光速の数%というとんでもない速度で航行し、数百光年のワープが可能だということです。

無能に見えた提督達は本当に無能だったのか

 やられ役となった代表的な人物はアスターテ会戦の第四艦隊パストーレ中将、第六艦隊ムーア中将、生き延びたもののヤンの引き立て役となった第二艦隊パエッタ中将が有名です。二倍の戦力でラインハルトに完敗寸前まで追い詰められました。

 では本当に無能かというと。

 まずパストーレ中将ですが、基本は統合参謀本部の命令に従って包囲作戦を実行してます。無論自身や司令部の参謀達も作戦を支持していますが、艦隊配置は参謀本部が決めた可能性が高いです。

 先手を取られてからの対応は遅い点はありますが、そもそも戦力差3対5は撤退も視野に入れる不利さです。包囲網の一翼のためできる限り対応しようとしましたが、奮わずに艦隊は敗北しました。

 続いてムーア中将ですが、確かに思考の硬直はありました。しかし、敵が最初から3回戦を予定して第二艦隊を放置するなど予測は難しくです。ラインハルトの天才性によって実行された作戦ですから。また予定宙域からの進路変更はもともと三個艦隊による共同作戦のため、勝手はし難いものです。

 惜しむらくは参謀のラップ少佐の進言を無視しての敵前回頭です。相手が老練なビュコック提督であったことも災いして敗北が決定しました。

 最後にパエッタ中将。

 アスターテ会戦ではいいところなしなので割愛。
 あるとすればヤンに指揮権を移した判断です。感情では気に入らなくとも、敵の作戦行動を全て見抜いた部下に任せてから失神しました。これは理性ではヤンを評価した証です。

 

 各司令官は一個艦隊を任されるほどの人材なので、艦隊運用や組織運営、作戦指揮ができる希少な軍人です。ただ官僚的要素や政治的要因があって出世した可能性は否定できませんが。すくなくともナンバリングされた主力の艦隊司令候補になる程度には前線勤務や艦隊指揮の経験があり、能力があったと考えられます。

 では以降活躍した第13艦隊やヤン艦隊との差異はなんだったのか。

 作戦指揮と戦術立案の両方が出来るヤンと艦隊運用の名人フィッシャーが手を組み、完全な役割分担で戦いに望んだことでしょう。

 恐らく帝国同盟の歴史を通じても珍しい体制ではなかったかと考えます。

 通常なら司令官と配下の分艦隊指揮官か、司令官、副司令官でそれぞれに分艦隊を持つ構成になると考えますが、ヤンは司令官が作戦指揮を副司令官が艦隊運用を担う構成にしました。
 フィッシャーが副司令官として戦闘指揮した描写はドーリア星域の会戦で、第11艦隊の別動隊攻撃のため、分艦隊を率いた時のみです。それ以外は全て艦隊運用に専念して、配下の分艦隊に個別に指揮命令することはありませんでした。

 敵との砲撃戦を繰り広げながら自由に陣形を再編することができたのもこの分担のおかげです。

 

 敗れた提督が無能過ぎたわけではなく、敵との相対的なものであるのはもちろん、特殊な体制で勝利を続けたヤンとその艦隊が特別だったと考えます。

異色の軍人アレックス・キャゼルヌ閣下の才能について

 ヤン・ファミリーには個性的な軍人が数多くいます。艦隊指揮は名人、戦闘指揮は凡人のエドウィンフィッシャー提督。昼の空戦と夜の格闘戦で名をはせた撃墜王ポプラン。若くして提督になり将器と勇気を兼ね備えたジャーナリスト志望のダスティン・アッテンボロー提督。艦隊戦主体の戦場で歩兵戦闘で伝説を築いた第13代ローゼンリッター隊長ワルター・フォン・シェーンコップ。帝国軍上級大将から一転して同盟の客将となり最後は民主主義のために戦い戦死したメルカッツ提督。

 その中でも後方勤務だけで中将にまでなり、ずば抜けた事務処理能力でヤンを支え続けたのがアレックス・キャゼルヌです。

 事務処理能力が高く、100万万単位の組織で補給や物資管理、組織運営をこなす力があります。ヤンとは異なり軍隊以外でも能力を発揮できた逸材で、論文が認められて企業の幹部としてスカウトを受けてもいます。帝国侵攻作戦では同盟軍史上最大の3,000万人の出征を支える補給責任者として後方主任参謀に選ばれております。

 なおこの3,000万人、どれだけすごいかというと正直判りません。現時点で地球の最大の企業は米国ウォルマートで社員220万人、最大の軍隊は中国人民解放軍が230万人。その10倍以上の人員を遠征させるというのですから物資の管理だけでも大変な仕事です。

 遠征後は一時期、補給基地司令官に左遷されましたが、ヤンの努力が実りイゼルローン要塞の事務総監と副司令官を兼任する役職を得ます。軍民合わせて500万人の巨大都市の運営をヤンから一任もしくは押し付けられますが、キャゼルヌは完ぺきにこなします。

 同盟敗北後は軍の上層部から後方勤務本部長代理を泣いて頼まれて、同盟軍に残留します。ヤン・ファミリーの一員であっても主流派から依願されるのは、やはり組織運営に必要な事務能力の高さからです。

 ヤンの逃亡後も統合作戦本部に勤務続けていましたが、ヤンの所在があきらかになるとすぐに合流、古参メンバーと共にヤン艦隊を支え続けました。回廊の戦いでヤンがラインハルトとの戦闘に集中できたのも、キャゼルヌの後方支援が万全だったからでしょう。

 実在の人物で前線や戦闘には参加せずに同様の功績を上げたのは、楚漢戦争の蕭何や秀吉に仕えた長束正家がいます。キャゼルヌのモチーフは軍事では劣勢の漢を兵站で支え続けて勝利に貢献した蕭何でしょうか。蕭何は漢の宰相となりましたが、キャゼルヌは銀河帝国宰相というわけにもいかず、ハイネセン自治政府の閣僚に就任するぐらいしか才能を発揮する場がなさそうです。

 なお企業してビジネスマンとなるのも、本を書いてコンサルタントになるのもありなので、旧ヤン艦隊の中で最も再就職に困らない人でもありました。