要塞砲の射程距離とその性能

 イゼルローン要塞と言えば「雷神の鎚」。文章だけでも絶大な力を感じますが、画像や映像にすると圧倒的な暴力として映ります。でも艦隊戦の砲戦距離は数光秒から十数光秒なのに、トゥールハンマーは有効射程距離6.4光秒未満です。同盟軍が名付けたこの境界「D線(デッドライン)」は、艦隊編成で星系内を光速の1%(秒速3,000㎞)で移動できる艦隊が回避できるラインだと考えます。これより遠ければ発射後でも艦艇は回避可能、なので同盟が第6次イゼルローン攻略で実施した「D線上のワルツ」は、艦隊の回避能力のギリギリで敵を翻弄・誘引する作戦です。

 まあ撃つときに発光しながら充填するので、発射タイミングも判りやすいから散らばれば回避できるよねって話ですが、艦隊行動では数万隻もいる艦艇を柔軟に動かすことは難しく、これ以上近づくと喰らってしまう。なお要塞は大き過ぎる上に回避行動はとれないため、攻撃側は砲撃し放題です。しかし防御力も桁違いなので戦艦の主砲を束にしても敵わないため一方的に撃たれるという話。

 特大の核融合炉の大出力を前提として有効射程距離内の敵はトゥールハンマーで薙ぎ払う設計思想は、防御においては完璧に近いと思われます。

 なお建設は大変で、予算オーバーで責任者が自殺しましたが。

 

 他にも半永久的な防衛を目的としているため要塞砲以外の兵器もてんこ盛りです。二万隻の艦艇を収容可能で同時に四百隻を整備できて、兵器も製造できるという、当時これが移動できたら同盟終わってた代物。もしかして同盟が何度も攻略を目指したのも、政治的な理由を別にして、帝国に占領された同盟領にこんなのが作られたら本格的に終わると思ったからでしょうか。実際、帝国領には他にも要塞があり、帝国に要塞建設の豊富なノウハウがあるのは間違いないので。

 

 実際に移動式の要塞はガイエスブルクで実現しました。もし移動式要塞が同盟領を目指したとしたら。おそらく同盟艦隊総動員で護衛の艦隊を抑え込み、多数の隕石ロケットで要塞への物理突撃の敢行か、強襲揚陸艦で歩兵を送り込み内部から破壊を目指したと思います。ミサイル艦による飽和攻撃や無人艦による突入、陸戦隊の投入に効果があった点からも有効な攻撃でしょう。

 つまり「要塞占領ではなく破壊なら簡単」というヤンやラインハルトの発想に辿り着くので、移動式要塞は絶対的な存在ではなく、常識的に拠点として利用するところに落ち着くのでしょう。この二人はそう言いつつ、簡単に占領したり無力化したりする困ったちゃんですが。

 

 まあアルテミスの首飾り対イゼルローン要塞という構図も大艦巨砲主義的ロマンからすれば中々面白いかもしれません。作品中のハードウェアに頼る思考を嫌悪したり軽蔑したりする人たちからは鼻で笑われるでしょうが。十二基の大型衛星で、一個艦隊程度なら撃退できる火力と防御力があれば、イゼルローン要塞との打ち合いでも要塞装甲に損害を与えることができるかもしれません。そうすると要塞主砲を十二回撃つのが先か、月の女神の洗礼に耐えきれなくなるのが先か、中々のチキンゲームが展開されると思います。

 ただし別の作品となっていたかもしれませんが。

 やはり銀英伝的にはイゼルローンは回廊に鎮座して射程内に踏み込む敵をなぎ倒すのが丁度良いのかもしれません。