アムリッツァは損斬りできないと大損して元も子も無くなる話

 奇襲やら弱体化で叩かれた同盟軍遠征部隊の反撃はアムリッツァで行われましたが、そもそも弱っているならイゼルローンまで逃げかえればいいものを、「一矢報いたい」という願望で、有り金全部無くしてしまった戦いですね。

 前哨戦で8個艦隊が3個艦隊と艦隊だったものになり、10万隻が半減した時点で何故撤退できなかったかは、敵が焦土作戦を実施した時点で撤退できなかったに遡り、更には出兵した時点までたどり着きます。つまり目的が明確じゃなかったんですよね。

 帝都侵攻が目的なら侵攻ルートと補給線だけ考えて敵のいない星系なんか無視すればいい。帝国領を侵食し領土を増やす(帝国民を開放する)なら設定星系を同盟領として制圧、軍事基地化して奪いに来る敵を迎え撃つ長期戦を覚悟すべし。帝国軍の殲滅なら艦隊を集中運用、一部遊撃で敵の軍事拠点を攻略して敵主力を誘き寄せる案となります。どの案でも(成功か失敗かは別にして)各艦隊が占領地政策に忙殺と浪費させられた後に、アムリッツァで止めを刺されるなんて起きなかったと思います。

 

 そしてアムリッツァ、緒戦でヤンの第13艦隊はミッターマイヤー艦隊を相手にします。ここでヤンは疾風に先制攻撃することで機動力の高いミッターマイヤー艦隊を抑え込みました。原作には第5艦隊の描写はありませんが同盟軍右翼なら帝国軍左翼のロイエンタール艦隊と戦うという状況だと想像。中央は第8艦隊とメックリンガーやケンプにビッテンフェルトがいますが、ミッターマイヤー艦隊の後退でビッテンフェルトが突出、第13艦隊に防がれたらそのまま第8艦隊に矛先を向け、中央と左翼の分担に成功するという無茶をやらかします。もしこの時、ビッテンフェルトが十分な戦力なら第13艦隊も危ないでしょうが、第10艦隊との戦いで1割以上の損失と連戦で攻撃力が下がっていたのが幸いしたのでしょう。最も側面取られた第8艦隊は終わりましたが。

 で、ここで損害気にせずビッテンフェルト艦隊が第13艦隊にまた挑みますが、ヤンは神がかり的な戦術眼で黒色槍騎兵艦隊の攻撃方法の転換を見抜き、撃退に成功します。

 この時点で同盟軍中央の主力第8艦隊は大損害、第5艦隊は敵左翼の金銀妖瞳との対戦で忙しいものの戦線を維持するという奇跡的状況でしたが、後背から来た赤毛の登場で終焉を迎えます。

 巨大な恒星アムリッツァのサイズは不明ですが、赤色巨星で太陽の10倍から100倍あるとなると迂回して近づくのも最低数時間かかります。更に機雷原を敷設して時間を稼ぐ同盟軍首脳部の算段も、新兵器の運用でご破算に。

 正面から10万隻でもよかったところを、一時的に投入兵力を減らしても迂回させて後背を押さえるとは、元帥閣下は完勝=同盟軍壊滅を狙ったのでしょう。それは門閥貴族との戦いに備えてであり、本当に野心家ですね。

 

 まあここもヤンに完勝を阻まれるのはお約束として、第13艦隊の強さは際立ってます。これもフィッシャー提督の艦隊運動のお陰ですね。ヤンから敵の攻撃を受けながら陣形を変更する命令を複数の艦隊の敗残兵と新兵の寄せ集めでこなすとか、名人芸といわれて当然です。ヤンが考えフィッシャーが実行する奇抜な艦隊運動で、名だたる帝国軍提督を撃破していくのが物語の筋の一つになります。特に後の常勝と不敗の直接対決では神業を披露して戦局を決定づけます。

 

 そんな第13艦隊も帝国軍10万隻の追撃戦で最終損失3割の撤退となりますが、7割帰還は奇跡です。この時の同盟に戻れた戦闘艦艇は単純計算で3割程度の大損害でしたから。実際に第13艦隊を中心としてイゼルローン要塞駐留艦隊を編成したら、もう他の艦隊再編することもできなくなるほどの状況で本当に大損でした。

 

 それにしてもこの結果で、国防委員長から最高評議会議長にのぼりつめたトリューニヒトは唯一の勝ち組でしたね。ここから彼の躍進が始まると思うと、権力闘争の情け容赦なさを感じてしまいますね。