辞めたい男は辞めれない。

 常に辞表を胸に秘めている男ヤン・ウェンリー。「いつでも辞める用意がある。」は恰好いいかもしれませんが、年金暮らしに心躍らせるとなるとこれもどうかと。給料分は働いて、あとは年金はもらうのみという小市民的な発想なのに、人類の半分の勢力を支えちゃうという空想上とはいえ後にも先にもいない稀有な人です。

 まあ亜流はいますけど。

 で、第13艦隊がイゼルローン要塞駐留艦隊に再編され、艦隊司令官の名前を当てた通称「ヤン艦隊」が公式化されるというのは武人栄誉で、公式化だと公式文書でも使用可になるので、同盟では破格の扱いですね。本人は望んでは無いし、喜んでもいませんが。

 結局、敵も味方も皆「ヤン艦隊」と呼び、大層な渾名を付けられ、祭り上げられた本人が憮然とするという、まさしく矛盾の人ですね。

 やる気も無いのに勝つとか、勝利の価値を信じてないのに勝つとか、なんなら戦闘中も戦う意味を疑問視しているのに勝つとか、負けた側が知ったら集団訴訟を起こしたくなる人物です。

 まあ信奉者から見ても偉そうに見えない、部下のほうが偉く見える、目立たないけど居ないとなると判るという散々な評判で、戦争以外で偉くなるのが無理な男なので。

 

 こう見ると陰キャのヤンと陽キャのラインハルトという、スクールカーストの下と上の関係でありながら、一つだけ得意なヤンと全てにおいて秀でたラインハルトが学校トップを巡って争うような構図を思い浮かべたり。

  ラインハルトは生徒会長とサッカー部キャプテンと弁論部の部長を兼任して悠々とこなし、ヤンは文学部でひたすら本を読んでいる本来は接点の無い二人がある事を切っ掛けに対立する。

 本当はアンチラインハルトの学生がヤンを祭り上げて一大勢力を作り出しただけで本人は無関心、その横でシェーンコップやアッテンボローあたりが喜々として勢力拡大に奔走し、 キャゼルヌとムライが困った後輩や同期を見捨てておけずに協力するという図式でしょうか。

 

 無敗で無精で矛盾の人ヤン・ウェンリー。元祖ヤレヤレ系主人公として貴重な存在です。