魔術師兼ペテン師の真骨頂

 本人の自己評価とは異なり、軍人としては他者から絶賛のヤン・ウェンリー提督の渾名は魔術師またはペテン師と勇猛果敢が鑑とされる軍人には似つかわしくないものです。でもそれは戦闘において最大限に効果を発揮します。

・ヤン艦隊の動きがおかしいのはヤンの策か

・ヤン艦隊が動かないのはヤンの策か

・ヤン艦隊に動きがあればヤンの策か

と何をしても相手は疑ってしまいます。ここで生じた迷いは戦場では致命傷に成りかねず、実際にそれで敗北した者は数知れずです。

 

 本人自身が「ジャックと豆の木」を例に挙げて策略の醍醐味を語ってますから、戦争嫌いであるのに策略好きという人間には魔術師あるいはペテン師のあだ名は似つかわしいのかもしれません。でも戦う前は高揚のままにせっせと準備して勝った後は自己嫌悪に陥るというのは、普通なら精神面で病んでも仕方が無いのに平気なのは何故でしょう。ペテン師だからでしょうか。

 

 個人的には 戦略のペテンとして一番なのは、第九次イゼルローン攻略戦でロイエンタール相手に施したペテンを利用して、第十次イゼルローン攻略戦でルッツ相手にふざけた(褒め言葉)情報戦を仕掛けた上で、要塞を奪取する手法です。一個一個は戦術レベルの小技でも戦略拠点を自由に確保するという戦略構想は魔術師ならではです。

 戦術レベルだとバーミリオンで見せた「敵艦隊の側面を突いたはずなのに、いつの間にか包囲されていた」という某漫画のキャラに言わせたい神業ですね。最初からそのつもりでなければ不可能ですが、予定していても実行できるかと言えば無理な話。ヤンという柔軟どころか非常識な発想を持つ指揮官を得た名人フィッシャーが見せた究極の艦隊運動です。

 なお戦闘中に艦隊陣形を変えることは他の提督にできても、敵の攻勢を受けながら自在に陣形を変更できるのはヤン艦隊だけといってよく、ヤンとフィッシャーのコンビのみ成える魔術でしょう。

 

 奇跡を幾度と起こしたヤンの最後も意外なものですが、本人には不本意であるもののそれ故に伝説として語り継がれ、不敗の魔術師・奇跡のヤンとして名が残ったのだと思います。