味方が苦労しているのに一人だけ手柄をたてると楽していると思われる。

 ヤン・ウェンリーは「味方が失敗する中で、少しだけ点を稼いで昇進する」と軍部内の敵対する勢力から言われました。本人は「なるほど、そういう見方もあるか。」と感心していましたが。

 確かにエル・ファシルでは艦隊戦の敗北・逃亡から民間人脱出で点を稼ぎ、第6次イゼルローン攻防戦では前哨戦で味方を引っ掻き回したラインハルトを敗退させて点を稼ぎ(攻略は失敗)、アスターテでは2個艦隊壊滅で残りの1個艦隊も敗北寸前からの引き分けで点を稼ぎ、アムリッツアでも味方が壊滅した中で7割の生存率を保って点を稼いでいます。

 同盟軍の敗北の中で彼一人が奮戦したという解釈でいいと思うのですが、どうもヤンの日頃の態度から「味方の失敗を利用して楽して昇進した」という評判も受け入れられる土壌があったようですね。

  そんな評判も第8次イゼルローン攻防戦やラグナロックでの3個艦隊との戦闘を経てバーミリオンの停戦まで僅か1個艦隊(+α )で戦い抜いたおかげで、そんな声は無くなりました。もっとも同盟軍も実質無くなりましたが。

 やっぱり苦労が顔にでないとお気楽・呑気と見られてしまうのでしょう。やるべき事はやっていても飄々として力を抜いていると「真面目にやれ」と言う方はいらっしゃいます。

 本人も「楽して勝つ」を目標としているし、彼が指揮卓に呑気に座っている(ように見える)と周囲は心理的安定を獲得するので、わざわざ見ず知らずの他人の評価のために苦労人を装うことはしません。

 でもこうして考えるとヤンの受けた戦闘前や最中、また日頃からのプレッシャーていかほどだったのでしょうか。

 1個艦隊の人命と同盟全体の期待と命運を背負って作戦をたて実行する。負ければ即破産のポーカーを延々とする緊張感はどれほどのものだったのでしょうか。

 そして他に類を見ない成果を上げながら、ライハルトからも「報われているとは思えない。」と言われるほど何も得ていない。同盟軍元帥にはなりましたが報酬は元帥年金(敵戦艦一隻単位では微々たるもの)ぐらい、地位もイゼルローン要塞司令官兼駐留艦隊司令官程度です。美人の才女と結婚しましたが、これは既に中尉時代に予約済みだったので関係ありません。

 ラインハルトはキルヒアイスの存在で暴君に、ルドルフにならずに済みました。ヤンがこの扱いでルドルフにならずに済んだのは彼の素質、彼の権力欲・支配欲の無さ、強固な自由民主主義信奉、面倒くさがり屋等々だと考えます。どの要素が欠けても銀河は二人の独裁者で血に染まったでしょうから。