戦争以外役に立たない男

 政治家としても有能なラインハルトとは違い、ヤンは戦争以外は役に立たないのではと言われてます。やんわり「首から上だけ必要」と表現されたりしますが、逆に言えば戦場なら有能過ぎるの男です。

 これはムライ参謀長がユリアンフェザーン駐在武官として赴く時に激励の言葉の中にあります。

指揮官としての資質と参謀としての才能と、両方を兼備する珍しい人だ。」

 つまり指揮官としての戦術眼や指導力・決断力と参謀としての分析力・計算力が合わさったハイブリットです。

 参謀型というのは周知の事実で、アスターテでは敵の中央突破に対して艦隊を二分、分断前進後に背面展開する計画を、事前にかつ短時間で立案しています。第二艦隊はヤンの指示通りに動いたとあるので、かなり緻密な陣形再編の計画を立てたと推測されます。通常航行中の陣形再編ではなく、戦闘中の混乱の中での艦隊機動のため、最低限として分艦隊レベルでどのように動き、二分割した縦列陣を形成するか決めないと動けませんから。

 あと第六次イゼルローン攻防戦でも前哨戦で、ラインハルトの動きを読んで包囲作戦を立案します。複数の分艦隊を時間差で機動させ高速移動する敵を包囲するという作戦を一人で作成、それも実際には投入戦力を削ったのに有効な結果を出しました。

 一方で指揮官としても突出しているのは、風貌から印象からかあまり語られません。しかし戦場での流れを読む戦術眼は作品随一で、帝国侵攻作戦でケンプ艦隊との戦いでは絶妙なタイミングで撤退、アムリッツアではビュッテンフェルト艦隊が接近戦を挑もうと短距離砲戦とワルキューレによる攻撃を瞬時に理解して、一斉射撃で壊滅に追い込みました。

 またシュタインメッツ艦隊とレンネンカンプ艦隊との連戦では中央突破のタイミングや、敵の有効射程の直前で後退してからの反転先制攻撃では、その緻密な計算力と決断力もさることながら、一見無茶な行動でも部下に不満や不平を上げさせない指導力とは素晴らしいの一言です。

 バーミリオン会戦での損耗率八割越えは、通常なら軍隊として機能・維持できる数字ではありません。それでもヤン艦隊は組織として戦闘行動を続け、帝国軍の包囲を崩さなかったのはヤンの指導力のたまものです。

 

 このように軍人としては最高峰のヤンですが、生活能力・対人能力・社会適応性が低く、軍人以外の職業では良くて三流作家という立ち位置でしょうか。

 本人は望んでいなかった惑星間国家レベルのVIP、歴史上の偉人、そして英雄。そうなったのもひとえに戦争にしか役に立たない能力という、多くの人が望んで得られないものだったのは皮肉としか言えませんが、取り合えず軍人としては間違いなく凄かったのです。