キルヒアイスと言えば常勝無敗で横死した悲劇の英雄で、欠点も無い完璧人でした。無論、彼の忠誠はラインハルトとアンネローゼだけに向けられており、万人に優しいわけではありませんでした。
そんな彼ですが、あまりにも若くして死んだため、本当に有能だったのかとの声がたまにあります。
カストロプ反乱をはじめ単独での武勲も重ね、リップシュタット戦役でも別動隊として勝利を重ねてラインハルト陣営に貢献しております。ただ苦戦が無く完勝が多いため、逆に勝てる勝負に勝っているだけとの声に繋がっているのでしょう。
勝ち易きに勝つ、は玄人には有能だからと理解できても、素人には当たり前に見えてしまうのかもしれないので、戦歴を振りかえってみます。
カストロプ反乱
敵の本拠地を先に攻略すると見せかけて敵の移動を誘い、移動中の敵を強襲する。
→マリーンドルフ領への救援と敵の殲滅を最短で行うための良策。
同盟帝国領侵攻作戦
敵の補給部隊を敵の前線を抜けて占領エリア内で強襲する。
→中に入り込めば入り込むほどイゼルローン回廊からのルートが限られるため、待ち伏せしやすい。一方で敵の占領地域の奥深く侵入するため、敵の包囲を受ける可能性があり配下の艦隊全戦力で対応するのは最善。
同盟軍第十三艦隊との遭遇戦
戦力差があるため艦隊をローテーションで堅実に運用、波状攻撃をかけて第十三艦隊を消耗させる。
→すでに同盟軍第七艦隊を撃破しており、補給部隊強襲からの三連戦のため兵の疲労も考慮、強敵と理解している相手に慎重な采配は次善の策として有効。
リップシュタット戦役
キフォイザー星域の会戦までに大小六十戦で完勝、同会戦では五万の敵に二個艦隊及び直属の艦隊であたり、敵を壊滅させる。
→敵が艦隊編成もろくにできていないとはいえ五万の大軍、被害を最小限にするため自身での突入・攪乱攻撃を選択、結果は完勝です。これに味をしめて少数艦隊での切込などリスクの高い作戦を考えず、あくまでこの会戦のみ使用したのは良将の証拠。
それぞれの戦闘で考えうる最良の手を打つ名将に相応しい対応です。アムリッツア会戦やガイエスブルク要塞攻略戦では重要な役割を完璧にこなしておりますが、これも素人から見ると『敵が弱かった』というラインハルトを非難する貴族と同じ回答になるのかもしれません。その門閥貴族達の命運がどのようになったかは広く知られているところですね。
キルヒアイスが生きていればヤン自身が考えている通り、ラグナロックでの勝率はコンマゼロ以下だったでしょう。そしてキルヒアイスとヤンの対決は、どちらかの戦歴に傷がつきます。それとも引き分けとなり、やはりヤンとラインハルトの決戦になるか。それは結局判らず終いですが。