ラインハルトの政治的センスについて

 ラインハルトは軍事的センスは最初から示されていましたが、政治的センスは皇帝になってから発揮されました。

 まずはキュンメル事件で地球教に対して行った処置です。御前会議でラングが更なる調査を求めますが、地球教が何たるかを正確に理解した上で最適な処置を指示しています。つまり教義に基づき暴力を辞さないテロリストだと把握して即座に本拠地の制圧を目指し、その際も武力への躊躇なくです。実際にこの地球教徒掃討作戦で力を一気に削減された地球教徒は数年内に掃討されました。

 続いてレンネンカンプの暴走を切っ掛けとしたハイネセンの争乱についても、正確な情報を開示して発言の正統性を担保します。つまり自身の代理人であるレンネンカンプに非があった事を認めて、その上で同盟政府の不手際と不法行為を糾弾する手法です。皇帝という上位者ならではの論法ですが、後手に回った同盟政府は釈明ができないまま市民からの不信を向けられます。常に先手を取り主導権を握るラインハルトらしい方法です。

 工部省のシルヴァーベルヒ工部尚書が一時的に職務休み、次官のグルックが職務を滞らせ辞表を提示した時も彼を留任させました。ラインハルトは王朝創成期と安定期の工部省の役割の違いを把握しており、未来を見据えてグルックを残し、彼を次期工部尚書にして工部省をサイジングするまで考えていました。そしてシルヴァーベルヒを何れ帝国宰相とし、同盟領を含めた銀河帝国を統治する片腕にしようとしていた可能性まであります。

 同盟完全占領と滅亡において、自由惑星同盟の存在を認めた上で過去のものとする処置をとりました。新たな時代の幕開けを告げ、ローエングラム王朝新銀河帝国と共に歩むべしと同盟市民に認識させるとともに、確かに同盟は存在したと一片の慈悲をもって彼らを慰める手法です。この時にハイネセンに進駐した帝国軍やラインハルトを認めない一部の役人を、個人的感情ではありますが罰しない通達も出しました。これにより皇帝の器量が同盟政府を上回ることも示したのです。

 もちろん旧帝国を掌握した時に貴族の私有財産を利用して財政再建を行い、平民に対する特権階級の横暴を排除して、平民を優遇する政策を素早く実行したのもラインハルトのセンスです。彼は体制の基盤が軍とそこに兵を供給する平民であることを理解しています。皇帝逃亡を演出した時も旧体制の復活を目論む亡命政府と加担する同盟政府と戦う図式をつくり、自身の野心と支持者である帝国民の望みをリンクさせることに成功しました。

 

 常に戦争でも政治でも常に先手を取るラインハルト。惜しいかな民主主義政体ではその能力を生かすことが出来ません。二十過ぎの首相や大統領などを認めるのは大多数の人にとって困難だからです。もし選ばれたのならそれは英雄崇拝の賜物であり民主主義とは相反しますから。
 あと帝国本来の国力なら誰が統治しても当たり前との意見もあるかと思いますが、その状況を作り出すために旧体制を一掃したのもラインハルトです。リップシュタット戦役で敵となる貴族が多い事を喜ぶのも、心情とは別にそれだけ処分できる対象が多くなり、自身の権力強化に繋がると見越してでした。

 趣味が戦争で義務が政治。とはいえ政治のセンスもあるラインハルトですが、芸術と冗談のセンスは乏しくデートで「一緒にいてもつまらない男」扱いされるかと思うと人間何が幸いなのか判りません。もっともラインハルトの美貌なら「隣に居るだけで幸せ」となるかもしれませんが。