銀英伝における艦隊戦の意味について

 戦争は外交の一手段という言説を基準にして語るのなら、銀英伝における艦隊戦は最も○○な交渉手段といえます(この○○に入る言葉は色々あるので割愛)。交渉はスポーツの試合のように、できるだけ両陣営が対等になるようにルールを設定したりはしません。だから場所も時間も人数も自陣営の都合のいい様に設定しようとします。帝国側が同盟領に侵攻するタイミングは帝国の政治しだいで、同盟がイゼルローン要塞を攻撃するのもまた政治的要因によります(お互いの空気間で”そろそろ”はあるようですが)。

 一方で迎える側は相手と交渉(戦争)をしないわけにはいきません。不戦敗は敵に何かを差し出すことになりますから。同盟なら恒星系を、帝国ならイゼルローン要塞を明け渡すことになります。もちろんそんな選択肢はあり得ません(作品中にそんなことする非常識な方々がいますが、それは例外です)。だからこそ艦隊戦が発生するのですが、そもそも戦略単位である一個艦隊とは何かという話もがあります。

 艦艇数で一万隻以上、人員で百万人以上。一都市に匹敵するのは人だけでなくそこに投じられる資本も同じです。道路やビルを造り日々の生活を支える都市のシステムは、そのまま艦艇や軍の兵站になぞらえます。この膨大リソースを投入して得られるのが上記の外交(戦争)成果です。ハイリスクハイリターンですね。そしてハイリターンが今度はハイリスクに変わるのも特徴です。

 得られたリターン(宙域や要塞)を確保し続けるコスト、勝ってよりリスクの高い勝負に出てしまう(同盟軍の帝国領侵攻)リスク、負けた分を取り返そうとコストをかけてまたハイリスクに手を出す(タゴン会戦後の帝国やイゼルローン要塞を何度も攻略する同盟)リスク。結局勝って得たリターンを吐き出して艦隊建造と維持に投資を続けました。

 まあ続ける理由を「相手が攻めて来るから悪い」「相手が臣従しないから悪い」とお互いに求めた結果、帝国も同盟もぽっと出の金髪の孺子に総取りされたのですが。なおその金髪の孺子が総取りできたのは、彼が最も得意とする「艦隊戦による外交」を両国が百年以上続けていたからです。そうでなければ彼の急速な栄達も権力の掌握も不可能だったでしょう。

 物語の主軸で登場人物の見せ場でもある「艦隊戦」の存在は、二国間の外交の基本であったとともに、帝国同盟フェザーンの滅亡の理由でもあったわけです。そう考えるとこの物語が艦隊戦で彩られているのも判る気がします。