超光速通信による色々

 銀英伝に登場する空想的超技術の中に、光の速度を超えて通信が可能な「超高速通信」があります。光年単位の支配域を持つ国家運営も、何百光年離れていてもタイムラグがほぼない通信があれば情報の鮮度に差がなく安定した統治が可能でしょう。

 ただしこの超高速通信の詳細は分かりません。

 帝都オーディンイゼルローン要塞間やフェザーンと同盟首都ハイネセンという数千光年離れても普通に会話可能な技術から、亜空間跳躍と同系統の技術が使われているのではと勝手に推察します。質量のある宇宙船は一度の跳躍に限界はあっても、質量がゼロに近い「情報」であれば飛躍的に通信距離を伸ばせる仕様。まさしく超科学です。

 なお惑星や要塞といった場所からの通信は可能でも、航行中の艦船からは司令部への映像付きのリアルタイム会話は難しいという条件設定です。
 通信文のやり取りはあるので、情報量が少なければ船同士でも超高速通信が可能と考えられます。もちろん惑星地表と惑星軌道上や航行する艦隊内の通信は光秒単位の距離なので必要ないです。
 あとある程度の地位(艦隊総司令官)でも前線と後方でのやり取りをビデオレターを利用している点から、惑星や要塞のように大型の設備が設置可能で位置情報(座標)がはっきりしている場所同士は映像での会話が可能、宇宙空間を航行する艦船とは通信文レベルの情報量、また要塞でもイゼルローンのような最前線では傍受を避けるため通信文を主体とするという推察が成り立ちます。

 こうなるとヤンがイゼルローンの再奪取のために偽の通信文を利用した作戦が理解できます。要塞司令官であったヤンは統合幕僚本部と映像付き通信をすることはほぼ無く、常に暗号通信文でやり取りしていました(トリューニヒトの演説が映像付きで聞けるよう、回線自体は繋がってます)。

 これは帝国も同じだと判断したヤンは、バグダッシュに無差別通信文を送らせます。出撃と待機の相反する命令を織り交ぜての通信にルッツは混乱します。もちろん、直接映像付きの会話で確認すればことは足りましたが、要塞司令官という顕職までになるとおいそれと「皇帝陛下、この通信文を間違いなく送られましたか?」なんて問い合わせなどできません。そもそもラインハルトは大艦隊を率いて出撃しており、本当の通信もブリュンヒルトから発しているため、映像付きの会話はできない、または封鎖されていた可能性大です。

 そのおかげでまんまとルッツはイゼルローン要塞を奪われてしまいます。まあ無原則に偽命令を送り、どっちが正しいのかと混乱させた上に、「自分たちが罠を仕掛けようとしていると相手に思わせ、逆にそれを利用して罠に掛けようとする相手を罠に掛ける」という真っ当な人間には見破るなど不可能なペテンでしたから仕方がないですが。

 残念ながら現時点の人類には不要な技術。これが必要となる時代はいつになったら来るのでしょうか。そんな気持ちで今日も星を眺めています。