はばたき過ぎた禿鷲 移動要塞ガイエスブルクとその結末について

 イゼルローン要塞と並ぶ大要塞ガイエスブルク。直径45㎞の人工天体は戦艦の砲撃に耐える装甲、艦隊を屠る主砲、一万隻以上の艦船を収容できる基地能力と、申し分ない力を持ちます。門閥貴族連合が拠点とした理由も判ります。

 

 リップシュタット戦役後は放置されていたものの、イゼルローン要塞攻略のため移動要塞化されて回廊へと赴き、激戦の末に爆散しました。

 この第八次イゼルローン攻防戦では、万単位の人員を使い改修を行い、要塞の周囲に各十二個の大型エンジンを円状に取り付けました。大質量の要塞を通常航行とワープ航行させるそれぞれのエンジンは、当然大型戦艦よりも大きく既存の宇宙プラントを移動させるため、または大型輸送船用に開発されたるものを改造したと推察されます。一から設計・開発・製造するには準備期間が短過ぎますので。

 

 十二個の通常航行エンジンはワープアウト後にガイエスブルクがイゼルローン要塞の前面まで移動するために利用され、また最後の自爆攻撃でも使用されました。

 このエンジンは実は防御力もあり、自爆攻撃でイゼルローン要塞に突撃した際もヤン艦隊からの一斉射撃に一回は耐えます。これは何気にすごく、一隻二隻ではなく艦隊からの集中砲火、数十数百隻からの砲撃ですから旗艦クラスの戦艦でも一撃で沈む攻撃です。二斉射目で破壊されたとはいえ、敵艦隊からの攻撃を予想して防御力を高めていた可能性はあります。

 なお自爆攻撃ではヤンの采配で一個のエンジンに砲火を集中させてバランスを崩され、最終的に破壊されました。しかしエンジンを一つ破壊されただけでバランスを崩すのか、との疑問があります。現在の航空機の双発以上も一つ止まっただけでは落ちません。十二個もエンジンがあるガイエスブルクならなおさらで、各エンジンの出力調整すればバランスを保てると考えます。なのでスピンは条件が揃っていたからではと考えました。

・最大戦速またはそれ以上のエンジン最大出力で移動
・慣性制御を最大限にして最高加速
・上記を達成するため安全面には目をつぶり、自動制御や安全装置の機能を一部停止
・要塞内に5万人も残ったのは手動制御に必要だったから

 このため通常であれば姿勢制御できたガイエスブルクは、高速移動中にエンジンを破壊されスピンしてしまったのではと考えます。

 ヤンも敵が要塞に要塞をぶつける段階になって、始めてこの戦法に意味があると知っていた事からも、慣性制御や未来の航行技術があっても最大出力で疾走すると艦の制御が大変になると士官学校で習っていたのかもしれません。

 スピンしたガイエスブルクはミュラー率いる残存艦隊に突っ込んでしまいます。第5次イゼルローン攻防戦で同盟が使った無人艦による自爆攻撃では、イゼルローン要塞でさえ単艦突入で震えたのですから、ガイエスブルクが数十数百隻と接触すれば絶大なる威力となるでしょう。内部構造まで破壊が達したであろう状態でのトゥール・ハンマーの一撃は止めとなりました。

 

 要塞に要塞をぶつける戦法は、ヤンは元からハードウェアに拘らない発想から、ラインハルトはそもそもイゼルローン要塞を無力化する方法を持っていたので、追い詰められたケンプと違ってそれぞれ普通に考え至っていました。なので「誰なら考え付いた」「俺なら考え付いた」というのは無意味です。作中できちんと「考えつくのは素人か天才」とされていましたから。