自由惑星同盟はその名前ほど自由ではなく、滅亡するに至る過程は酷いものでした。ただこの星系間国家は常に戦時体制であったことを忘れてはいけません。建国時から常に帝国軍の侵攻に対する恐怖があり、自国を守るために膨大な戦力を維持運用する必要がありました。
宇宙歴796年の本編開始時で主力の宇宙艦隊だけでも12個艦隊を擁していました。一個艦隊は百五十万人前後のため、艦隊要員だけでも2,000万人です。各星系の警備艦隊や地上軍に補給や整備要員を合わせると全軍兵力は5,000万人となります。人口130億と比べると0.38%は少数ですが、就労可能な若い元気な世代を徴兵しているので必然的に戦死者もその世代が多くなります。結果として一般社会には上と下の世代が多く、おまけに優秀な人物はだいたい軍隊にいるというアンバランスな国家となります。
軍が国家の最大組織で、予算の何割かは軍事費という社会では、完全な自由を謳歌するのは難しいでしょう。それでも銀河帝国のような一部の人間の自由や繁栄のために、大多数が苦労する社会よりはマシだとして、自由惑星同盟政府と同盟軍は抵抗を続けます。
同盟は定期的にイゼルローン回廊を通過して進攻する帝国軍から自領土を守る防衛戦(たまにイゼルローン要塞に攻め込み敗北する)が主体でした。外交ルートがフェザーン経由のみく政戦両略を駆使できない中で同盟政府は疲弊し続け、帝国領侵攻で余力を使い切り、最終的に体制を一新した帝国に敗れて滅びます。
悲しいことにそれまで抵抗していたゴールデンバウム王朝の圧政者ではなく、 公明正大で民に優しいローエングラム王朝の絶対権力者によって滅ぼされたのです。ラインハルト・フォン・ローエングラムという一個人の器量が民主主義を上回った瞬間でした。
戦争での敗北という外的要因や、腐敗という内的要因で国家が滅びることはあります。しかしラインハルトがいなければ、まだ命脈を保てたのではないでしょうか。いや、地球教団に乗っ取られていたかもしれません。もしくはヨブ・トリューニヒト終身執政官による『自由がない』惑星同盟へと変貌した可能性もあります。より腐敗した社会で内乱、群雄割拠と収拾がつかない状況もありえました。
それに比べれば惑星ハイネセンを中心としたバーラト星系のみの自治領ですが、共和制国家に生まれ変わったのは悪くない結末だったとも思えます。
終焉を迎えた3つの国家のうち、一番悲惨な終わり方をしたと言える自由惑星同盟。国家は永遠でないという作品のテーマを体現したこの国は銀河帝国のアンチテーゼとして生まれ、新銀河帝国の誕生の産湯として役割を終えました。