自由惑星同盟という戦時体制国家

 自由惑星同盟は帝国から離脱した16万人の人々の建国から始まり、帝国からの亡命者を吸収しつつ拡大しました。
 民主主義国家として共和制を敷き、法的にも自由が認められる体制でしたが、ただ戦時体制を続けていた点が、共和制を歪なものにしていったようです。
 まず徴兵制があり、同盟民は必ず軍務に就く必要があります。忌避すれば社会福祉的な労働で済まされず、逮捕→収監されるレベルの厳しさです。
 次に国家予算の半分が軍事費です。そのため社会保障やインフラ投資が相対的に少ない配分となります。
 また国防軍士官学校等は無償で学べる一方で、末期になると人文科学系の教育機関の予算は削減され、優秀な人材は軍に吸い取られていきます。結果として、ひたすら人的資源と予算を消費する同盟内最大組織である軍隊を、社会が全力で支える構造が続き、自由惑星同盟は疲弊していきます。
 特に12個艦隊の戦闘艦艇、16万隻を維持するだけでも大変な労力と費用がかかります。更に各星域の警備艦隊や支援組織などを合わせて、同盟末期は人口130億に対して軍5,000万人体制でした。最高評議会でも問題となった、軍に人材が吸い取られ、社会インフラの維持すら困難になる状況まで追い込まれます。

 軍5,000万に対して人口130億人は0.38%、現在の日本の人口1億2千万人だと45万人。それほど多いとも思えませんが、宇宙艦隊が主戦力である同盟軍は、大半が宇宙艦艇の乗組員であり一定の優秀さが求められます。艦艇の修理も補給艦の操船も専門性が高い人材が必要となります。戦闘艦を開発・生産する企業やその周辺のシステム開発・機器開発企業を含めると、軍事に相当数の人材が取られています。
 最高評議会でホワン・ルイが技術者・輸送及び通信関係者を400万人、軍から民間に戻して欲しいと発言したのも、民間で足りなくなった人材は軍にはまだ十分いるからです。
 当然、国防委員長のトリューニヒトは拒否しますが。

 軍が国を傾かせても体制を維持したのは、悪辣な銀河帝国の来襲に備えるためです。帝国からの軍事的圧力は強く、同盟の12個艦隊に対して帝国は18個艦隊。同盟は迎え撃つ側のため地の利があり、帝国の侵入を防げていますが兵力的には常に劣勢でした。
この状況を打破するために、政治には絶対はなく戦争以外の選択肢があるのではと考える同盟政治家もいたようです。しかし、戦時体制で軍隊と戦争が日常とリンクしている同盟民の意識はどうでしょう。
 クーデター討伐に向かうヤン艦隊に、同盟民は同盟憲章にある抵抗権をたてに参加を求めてヤンを困らせたエピソードからも、帝国と戦い続ける選択をする者も少なくないでしょう。スタジアムの虐殺で平和的集会に集まった同盟民が、いざとなると完全装備の兵士に立ち向かったのも、徴兵による経験者がいただけでなく悪逆には抵抗する意志があるからではないでしょうか。
 同盟民の中で帝国を滅ぼせの強硬派と、帝国と講和など無理の反帝国派と、帝国との停戦・休戦を望む穏健派と、帝国との和平を求める講和派で意見が割れる状況では、簡単に帝国と交渉などできないでしょう。
 おまけにフェザーンの有形無形の妨害も、何度も機会を逸した一因となります。

 それでも帝国と同盟間の和平の大きな機会は、幼少期を同盟で過ごした皇族マンフレートⅡ世の即位と、ヤン・ウェンリーイゼルローン要塞の奪取の2度ありました。「もし」は不毛ですが一時的な休戦が実現すればどうなっていたでしょうか。

 前者であれば帝国は変質して立憲君主制になったかもしれません。その代わり帝国では内戦が発生した可能性があり、同盟も新皇帝派として介入した可能性があります。
 後者なら一時的な平和を手に入れるかもしれませんが、全宇宙の支配を目指すラインハルトに焚きつけられたクーデター派による大規模な内戦が発生した可能性があります。元々シトレ派とロボス派の2大派閥が軍部にあり、休戦後は社会基盤の整備を目指す派(民間へのリソース振り分け)と軍事力を維持する派(軍隊や軍需産業のリソース維持)で政争が激しくなると、そこをラインハルトに付け込まれ、シトレ派閥(とされた)ヤンを超えたいフォーク准将を含めた若手が中心となり、帝国帰りの帰還兵のプランを利用してロボス派でクーデターを実行、などがあり得ます。

 ラインハルトが新王朝を建て全宇宙を支配する。その流れが止められないとすれば、作中でヤンが考えた通り同盟は帝国のアンチテーゼで、旧帝国の消失は同盟の存在意義の消失であり、新帝国のラインハルトの器量の前に消滅したのは、対ゴールデンバウム王朝戦時体制国家としては必然だったのではないでしょうか。