銀河帝国末期の自治領フェザーン第5代自治領主を務めたアドリアン・ルビンスキー。政略と謀略のプロで黒狐とあだ名される男は、新帝国においての重要政治犯として常に追われながら、様々な謀略で帝国政府に対抗しました。
帝国の公敵とされる実力は、新領土総督のロイエンタールを謀反に追い込む程でした。一方で武力は皆無のため、手段が陰謀のみでそれも他者を利用するしか方策がないのが弱点でもありました。
その彼の大きな失点が帝国軍同盟領侵攻作戦「ラグナロック」時のフェザーン失陥です。ラインハルトと組んだ帝国駐在官のボルテックの偽装工作(偽情報流布、情報隠蔽)に惑わされ、事前に帝国艦隊のフェザーン進駐を察知できず、地下に潜ることになりました。
しかし他者を駒にしか思わない男が元補佐官でそれまで役に立ったとはいえ、手元を離れた者を簡単に信用するでしょうか。ケッセンリンクすら疑いの目を向けていたのにです。
ここで二つの想定があります。
一つは帝国宰相と帝国軍三官を兼任するラインハルトの野心に気がつかないわけがないということを。前例や通念など一蹴する者がこれまで通りの手段を用いるのかと。フェザーンの力では帝国軍の武力に対抗できず、遅かれ早かれフェザーンが奪われるのであれば「強引に奪われた」事実が必要であったのではないでしょうか。
もう一つは地球教の存在です。その軛から逃れるため帝国軍のフェザーン進駐を利用したのではと考えます。周囲の人員を整理して「暗殺」の手が及ばない隠れ家に入るために。デグビイエス司教をボルテックが勝手に無力化してくれたのが良い誤算で、おかげで明確な背信行為とは見られずに済みました。
フェザーン失陥はベストではなくベターな選択として、ルビンスキーの計算内であったとすれば、その後の行動との整合性がとれます。事実、彼は帝国軍の追及から逃れることができました。
ルビンスキーの野望が頂点に立つことであれば、ラインハルトの銀河統一後に乗っ取るのが効率的です。ラグナロック完了まで動かなかった理由も成り立ちます。
地球教がローエングラム体制の明確な敵となったのはキュンメル事件からですが、きっかけは暗殺未遂だけでなくトリューニヒトの密告です。明確に暗殺実行犯だと告げられたため憲兵隊が素早く動けました。暗殺失敗後に帝都支部は壊滅、間髪入れずに地球遠征となりました。
この密告にはルビンスキーが絡んでいるという想像は、それほど無理がないと考えます。地球教の進出をフェザーンが支援していたのは明白で、各地の支部の設立も関係しているでしょう。つまりルビンスキーは後から帝都に来たトリューニヒトよりも、事情に通じていたのです。
トリューニヒトに裏切りを促して密告させて、地球教壊滅を帝国の手で行わせる。彼への見返りはルビンスキーからの資金援助。互いに信頼も無く利用し合う関係なので、かえって手を組み続けることができたのでしょう。
彼の野心が実らなかったのは短期では病気のせいではありますが、長期には武力が無い点にあります。彼が組める相手は潜在的な敵対者ばかりのため、孤軍奮闘となったのが一番だと考えます。
政治家ではなく陰謀家と思われていたのも、理由かも知れません。同じ嫌われ者トリューニヒトは政治家であったため新銀河帝国でも表舞台で活動できました。ラインハルトの失策とはいえ任官して帝国文官としての地位も得ていました。