お祭りヤン・ファミリーの構成員(問題児達)

ヤン・ファミリーは、朱に交われば赤くなるを地でいく組織で、司令官の存在を起点として同盟軍の中では異色の司令部を構成していました。
特に色を濃くしているのが問題児達、ワルター・フォン・シェーンコップ、オリビエ・ポプラン、ダスティン・アッテンボローらです。

彼らは各々が組織の中で交わらず孤高の存在だと自負していますが、間違いなく朱の構成要素で責任の多くを占めています。

 

第十三代薔薇の騎士連隊隊長でイゼルローン要塞防御司令官のワルター・フォン・シェーンコップは、性格は不遜、行動は不惑、発言は不穏と危険人物の代表です。

実際にヤンにクーデターをそそのかしたり、政府と敵対した時には平然と武器を使用したりと実力行使に迷いが無いタイプです。

その自信を支えるのが「地に足をついている限り彼ほど頼りになる男はいない」と言われるほどの白兵戦の戦闘及び指揮能力です。同数兵力なら敵なしの薔薇の騎士団を率いて作中でも暴れ続けました。

最後まで自分を貫き、死ぬ時すら自分の趣味に合う死に方を選ぶほどです。

 

要塞防空指揮官で第一空戦隊隊長のオリビエ・ポプランは、お祭り好きの享楽主義者です。戦争をスポーツの一種と捉え、作中では常に余裕の態度で空戦をこなす撃墜王でした。
自分の配下の中隊名に「ウイスキー」や「コニャック」など酒の名前を付ける(一説には女性の下着の名前を付けようとした)ぐらいふざけた性格です。同時に空戦において新たな戦技の創始者であり生涯撃墜数で五指に入る天才でもあります。

生き残る秘訣を問われて「世の中を甘く見ること」と答える男は、常に死地に身を置き、ヤンと後継者のユリアンを支え続けました。

 

ヤン艦隊の分艦隊司令官ダスティン・アッテンボローは常に野党気質で、本流とは相いれない所がありながら才能豊かで、提督にまでなった男です。

ただし問題児ぶりは士官学校で既に発揮されており、門限破りや禁止図書を組織だって学生内で回覧させるなど、反体制的行動を主体的に実行していました。

ヤンと共に同盟から離脱した後は、「革命ごっこ」に熱中する様をヤンに皮肉られるほどです。

それでも艦隊指揮の技量は本物で、ヤンの奇跡の種として様々な戦いに参加、最後まで生き残っています。

 

これらを重用し続けたヤンの器量(もしくは責任)の範囲ではありますが、彼のもとでノビノビとやりたい放題(おそらく彼らは「自分は他の連中と違って常に自重していた」と主張するはず)充実した人生のひと時を過ごしたのは間違いなさそうです。

黒狐の敗北、フェザーン失陥は本当に敗北だったのか

 銀河帝国末期の自治フェザーン第5代自治領主を務めたアドリアンルビンスキー。政略と謀略のプロで黒狐とあだ名される男は、新帝国においての重要政治犯として常に追われながら、様々な謀略で帝国政府に対抗しました。

 帝国の公敵とされる実力は、新領土総督のロイエンタールを謀反に追い込む程でした。一方で武力は皆無のため、手段が陰謀のみでそれも他者を利用するしか方策がないのが弱点でもありました。

 その彼の大きな失点が帝国軍同盟領侵攻作戦「ラグナロック」時のフェザーン失陥です。ラインハルトと組んだ帝国駐在官のボルテックの偽装工作(偽情報流布、情報隠蔽)に惑わされ、事前に帝国艦隊のフェザーン進駐を察知できず、地下に潜ることになりました。

 しかし他者を駒にしか思わない男が元補佐官でそれまで役に立ったとはいえ、手元を離れた者を簡単に信用するでしょうか。ケッセンリンクすら疑いの目を向けていたのにです。

 

 ここで二つの想定があります。
 一つは帝国宰相と帝国軍三官を兼任するラインハルトの野心に気がつかないわけがないということを。前例や通念など一蹴する者がこれまで通りの手段を用いるのかと。フェザーンの力では帝国軍の武力に対抗できず、遅かれ早かれフェザーンが奪われるのであれば「強引に奪われた」事実が必要であったのではないでしょうか。
 もう一つは地球教の存在です。その軛から逃れるため帝国軍のフェザーン進駐を利用したのではと考えます。周囲の人員を整理して「暗殺」の手が及ばない隠れ家に入るために。デグビイエス司教をボルテックが勝手に無力化してくれたのが良い誤算で、おかげで明確な背信行為とは見られずに済みました。

 

 フェザーン失陥はベストではなくベターな選択として、ルビンスキーの計算内であったとすれば、その後の行動との整合性がとれます。事実、彼は帝国軍の追及から逃れることができました。

 ルビンスキーの野望が頂点に立つことであれば、ラインハルトの銀河統一後に乗っ取るのが効率的です。ラグナロック完了まで動かなかった理由も成り立ちます。

 地球教がローエングラム体制の明確な敵となったのはキュンメル事件からですが、きっかけは暗殺未遂だけでなくトリューニヒトの密告です。明確に暗殺実行犯だと告げられたため憲兵隊が素早く動けました。暗殺失敗後に帝都支部は壊滅、間髪入れずに地球遠征となりました。
 この密告にはルビンスキーが絡んでいるという想像は、それほど無理がないと考えます。地球教の進出をフェザーンが支援していたのは明白で、各地の支部の設立も関係しているでしょう。つまりルビンスキーは後から帝都に来たトリューニヒトよりも、事情に通じていたのです。

 トリューニヒトに裏切りを促して密告させて、地球教壊滅を帝国の手で行わせる。彼への見返りはルビンスキーからの資金援助。互いに信頼も無く利用し合う関係なので、かえって手を組み続けることができたのでしょう。

 彼の野心が実らなかったのは短期では病気のせいではありますが、長期には武力が無い点にあります。彼が組める相手は潜在的な敵対者ばかりのため、孤軍奮闘となったのが一番だと考えます。

 政治家ではなく陰謀家と思われていたのも、理由かも知れません。同じ嫌われ者トリューニヒトは政治家であったため新銀河帝国でも表舞台で活動できました。ラインハルトの失策とはいえ任官して帝国文官としての地位も得ていました。

 

 最後のフェザーン自治領アドリアンルビンスキー。まだまだ考察の余地がある人物です。

大艦巨砲主義があったというので想像してみました。

 帝国暦400年代・宇宙暦700年代の後半は、1個艦隊1万隻以上の艦艇の機動力を活用して柔軟な運用で勝利することが主流でした。しかし以前には大艦巨砲の時代があったそうです。

 地球の時代の話であれば第一次世界大戦前後がそれにあたります。超弩級戦艦が登場した時代です。では宇宙時代となると残念ながら情報はありません。ロイエンタールが語った「かつてはあったが今ではない」を参考にするともっと昔、100年以上前でタゴン星域会戦よりは以後でしょうか。

 

 人類には巨大なものを作る能力はありました。人工物ならイゼルローン要塞がその代表です。巨砲もありました。代表がイゼルローン要塞の雷神の雷(トールハンマー)です。

 ならば巨艦も製造可能でしょう。ラインハルトやヤンの活躍した時代の戦艦クラスは全長1kmを超えますが、当然これより大きいと考えます。

 1kmクラスを巨艦と言わないのなら2kmか3kmか。5kmもありえます。砲門も直径10mか20mか。宇宙戦艦ヤマト波動砲よりも大きな口径の主砲が搭載された艦から吐き出されるエネルギーで、他を圧倒する光景は見ても見たい気がします。

 全長3.5kmのヴァルハラ級戦艦とか、駆逐艦クラスなら複数搭載できるネプトゥーヌス級ドック型大型母艦、全長10kmの機動要塞を旗艦とした帝国艦隊も壮観でしょう。

 ただこれらの艦は機動力では巡航艦以下のサイズの艦には遅れをとり、もしかすると雲霞のごとく群がる小型艦艇の攻撃に耐えきれず、轟沈する光景があったのかもしれません。

 小型艦艇の集団戦術に対抗するために、巨艦の周囲に小型艦艇を配置するようになったのかもしれません。本末転倒ですが。動きの鈍い中央の巨艦を守るため、護衛艦隊は思うように戦術機動ができず、集中砲火を浴び続けて轟沈していったのかもしれません。

 ならば護衛艦隊を自由に動かして敵の弱点を突けばよいのでは。

 これが帝国軍の軍事ドクトリンを見直す機会になったと考えます。まずは巡航艦以下の艦艇の機動力が評価され、敵艦隊の包囲または突破戦術が重要となる。戦艦も機動力を確保するために小型化され、今の1㎞級が標準となる。

 

 包囲と突破、二つの基本を実行するために巡航艦が主力となり、機動戦を繰り広げるなかで戦術が洗練されていったのがラインハルトとヤンの時代なのでしょうか。

 ブリュンヒルトすら小型に分類される大艦巨砲の時代。時代の徒花となった巨艦達の活躍と没落は、知ることが叶わぬゆえに想像力がかき立てられます。

帝国印絶対零度の剃刀-義眼の軍務尚書の嫌われ方について-

帝国が誇る冷厳鋭利な参謀長のち軍務尚書は作中、味方である提督達から嫌われてました。特に性格が1mmも合わないミッターマイヤーや方向性が真逆のロイエンタールとの不仲は有名ですが、他の提督達も嫌ってます。

 

「犬は犬同士、気が合うのだろ」

「やつは葬儀さえとりしきっていればいい。よく似合うし、誰の迷惑にもならない」

「やつの巻きぞえになるのはごめんこうむる。やつに同行してヴァルハラにいくことになったら、ワルキューレの車から突き落としてやるからな」

フランツ・ヨーゼフ・ビュッテンフェルト提督 家訓で悪口はより大きな声で口にするため

最も多くの発言は帝国の破壊衝動、猪、突撃〇〇のビュッテンフェルト提督です。言いたい放題です。相手がそこに居ても居なくても関係ありません。

 

「暗殺者の役立たずめ、どうせ殺害するのならオーベルシュタイン軍務尚書を吹きとばせば、賞賛してくれる者もいるだろうに」

アウグスト・ザムエル・ワーレン提督 事件の収拾に動く中で、軍務尚書の無事を知り

「あのオーベルシュタインより早く死んでたまるか。俺は奴の葬儀の時に、心にもない弔辞を読んで心で舌を出してやる、それが楽しみで、今日まで戦死せずにきたのだからな」

コールネリア・ルッツ提督 事件により負傷し病院で同僚のワーレン提督の見舞い時の発言

キルヒアイス提督麾下で副司令官として共に戦った二人です。そのため赤毛の提督と軍務尚書への想いは同じくしており、二人の間には多少の友誼があったと思えます。

なお上はある事件に遭遇した一人の内心、下は被害に遭ったもう一人の発言です。会話ではありませんが、奇しくも同じ気持ちであったことが証明されております。

 

「かの辣腕なる軍務宰相閣下が、見えざる手を伸ばして暗殺したとしても、おれは意外には思わぬ」

オスカー・フォン・ロイエンタール提督 相手を評価しながらも皮肉と悪意を持っての発言

互いに理知あるものの自分の流儀を曲げぬ性格で、何よりライハルトに求めるモノが真逆のため、片方はこのような発言をするに至ります。

もう片方も相手に偏見あり、それが微妙な形で立証されたのですが常に沈黙を守るので真実は闇の中となります。

 

「あのオーベルシュタイン」

ウォルフガング・ミッターマイヤー提督 参謀長または軍務尚書の名がでる都度の発言

余人には真似ができない彼の疾風の艦隊指揮と同様に、名をあげるだけの一言で嫌悪の感情を周囲に表現するという芸当です。大人気ないですが。

比較的ミッターマイヤーは内心を記されることが多く、オーベルシュタインに対する感情が読者に対しても露わですが、その逆、オーベルシュタインの感情は実は謎だったりします。

 

オーベルシュタインという人物、作中は嫌われ者ですが武闘派のばかりのローエングラム体制で唯一の理性派として評価するファンはおり、一部のファンは鋭利な眼差しで見据えられたいと思っているとかいないとか。

有能で功績もあり皇帝に対しても諫言するオーベルシュタイン。嫌われる事で体制維持に貢献したとも言われる男は、同時代や後世の、そして読者の好悪すら一顧だにしないのでしょう。

セリフで語る銀英伝-帝国友人編-

英伝の特徴である意味深な、或いはそれ以上の会話は互いの関係性を表すとともに、読者に両者の絆を知らしめる要素があります。

 

「なんのことだ。まるで覚えていない」

「・・・・・・ふん、そうか、それならいい」

酔った勢いで告白した心の傷を、聞いたはずの相手が覚えてないフリをする。プライドの高い友人への不器用な配慮があり、片割れはその好意に感謝しつつ素っ気なく済ませます。

長年戦場を共にした双璧ならではの会話です。

 

・・・・・・おれは宇宙を手に入れることができると思うか?」

「ラインハルトさま以外の何物に、それがかないましょう」

自分の怒りを失敗した部下に向けたことをとばっちりだと諫められたあと、諫言した腹心の友に問うた言葉とその返答です。高見を目指す金髪の友とその達成を信じて支える赤毛の友。

幼少期から青年期を共に過ごし苦難を歩んだ二人だけの会話です。

 

「おれが残って奴らを防ぐ」

「ばかなことをおっしゃるな」

「ばかはないだろう。年長者の責任をはたすだけのことだ」

「卿には婚約者がおありだ。身軽な私のほうこそ残ります。」

「卿には卿にしかはたしえぬ責任をはたせ。それ以上、形式論を聞かせてくれるなよ。そんなことをしたら、謝礼として左腕を撃ちぬいてくれるからな」

皇帝を守り逃亡する中で、追っ手を防ぐため一人残ろうとする者とそれを止める者。二人は同格ですが、残る方は年長者としてまた右腕を負傷した僚友を庇い、危険な任務を買ってでます。

戦友の思いと覚悟を知り、互いにそれぞれを託す二人の会話です。

 

十年来の友人、幼き頃からの親友、戦火を共にした戦友達の心の結びつきは様々です。原作では比較的地の文があっさりしているぶん、二人の性格と関係性が判る会話が思いのほか情緒的であるのも銀英伝の特徴ですね。

雷神の槌(トゥールハンマー)に関する一考察

 イゼルローン要塞の主砲である出力9億2400万メガワットのビーム砲「トゥールハンマー」は、絶大な威力を誇り、艦艇の防御など意に返さず直撃を受ければ戦艦も蒸発するほどです。

 原作では巨大砲、映像作品では複数の出力装置を一点に集約しての砲撃や大規模なエネルギー放出装置で表現されております。

 さてこの出力9億2400万メガワットの主砲ですが、一部の界隈では大したことなくね、との話があります。

 10秒照射のエネルギー換算(9.24PJ)でMT級の核兵器程度と計算されてます。巨大戦艦を蒸発させるという表現からはそれほど逸脱してはいません。それでも一回の発射で艦艇数百隻が消し飛ぶまでに至るかといえば、確かに疑問です。

 そこで原作の記述を再確認します。まず第一に「要塞主砲群」との表記があります。群です。つまり複数です。(徳間ノベル版の挿絵では複数の砲塔から発射されています)

 発射する時も「砲手たち」がスイッチを押しています。

 一門の出力が9億2400万MWの要塞主砲をトゥールハンマーと呼び、複数設置されたトール・ハンマーの一号基から十数号基が一斉に砲撃することで、圧倒的質量感の光の柱が可能となると考えるのはいかがでしょうか。

 直径60kmの要塞なら一基が旗艦級の戦艦よりも巨大な砲を複数設置可能です。

 ガイエスブルク要塞を参考に12門だとすると、円形に並んだ砲塔から合計110億MWで斉射される盛大な花火は、戦艦の防御力でも対応不可能となり、10秒ほどの照射時間で数百隻が蒸発するのも無茶ではありません。

 なおこれを支える核融合炉となると、とんでもない出力が必要です。チャージによる溜めが可能だとしてもイゼルローン要塞核融合炉は、上記の理屈なら億MW単位の出力が必要となります。砲撃間隔は短く(分単位)で何度も発射できますから、専用の核融合炉があってもおかしくありません。、それでも戦艦に搭載されるものよりも大型の核融合炉だと想像できます。

 参考までに現在の国内最大の原子力発電所の原子炉は大型1基で130万キロワットです。比較にならない規模ですね。(核分裂炉と核融合炉等の差はありますが)

 

 圧倒的な威力でイゼルローン要塞の「武力制圧」を不可能としたトゥールハンマー。億MW出力のビーム兵器は本当に凄いのか。それとも科学が発展して「やっぱりたいしたことない」となるのか。生きている間に判明して欲しいものです。

セリフで語る銀英伝-同盟相方編-

英伝の特徴である洒落た、或いはそれ以上の会話は互いの関係性を表すとともに、読者を楽しませる要素が多分にあります。特に自由の国の同盟では、個人的な会話であれば年齢、階級、立場に関係なくなされます。

 

「こいつは同盟No.2のパイロットだ」

「同盟No.1のパイロットは墓の下だよ」

相手を2番手と紹介しながら自分がNo.1だと暗に語る相手に、No.1は戦死したので自分が実質のNo.1で先に語った相手はそれ以下と返す。

友情?溢れる戦友の会話です。

 

「ブランデー、もう一杯いくか」

「いただきましょう」

被保護者のために身辺に配慮するようにできの悪い保護者を諭した先輩に、後輩がそのできの悪い保護者に被保護者を紹介したのは誰?と問うた後のやりとり。

口は悪くとも信頼しあっている先輩後輩です。

 

「娘が父親の罪をせおうこともなかろうしね」

「まったくだ~おれの娘だということで甘えることのないようにしてもらいたいな」

同盟軍を代表する不道徳の二大巨頭が、片方の隠し子(父親曰く知らないので隠していない)の件で、もう片方が止めを刺しに向かい、相手は受け止めるどころか余裕をもって反撃する。

思春期の娘の悩みをネタにやりあう不良達です。

 

「・・・人類の文明は酒とともに始まった。・・・酒は知性と感性の源泉であり・・・」

「今どき安酒場の宣伝文句でも、もう少し気の利いたことを書くんじゃないでしょうか」

暇になった要塞司令官がクリエィティブな活動を志して書き始めた論文めいたものの冒頭を、被保護者が酷評して。以降は「よく言って給料泥棒」の地位に甘んじる。

崇拝する一方で評価はきちんと下せる良い子と、才能が集中した保護者との温かい会話です。

 

育まれた関係が生み出した友情(一部?)溢れる会話もまた、銀英伝の味の一つです。