赤毛の親友は前半二割で去ったのに、最後まで登場する苦労人。

 キルヒアイスは作品前半でお亡くなりになりましたが、その後も作中で名前が度々出てきます。


 同盟遠征時の謀略の一環で大義名分を手に入れるために部下を殺す(自死させる)ことになったラインハルトは、キルヒアイスならこんなことは許さないと考えます。
 後でヒルダに痛烈に指摘されてますが。

 

 帝国軍がフェザーンを占領した時に、ラインハルトはフェザーンが持つ同盟の星系図を入手します。ここで彼は独語します。
「行こうか、キルヒアイス。俺とお前の、宇宙を手に入れるために」と。
 その様子をヒルダは心配していましたが。

 

 そして同盟崩壊後にヤンが立て籠ったイゼルローンを攻略しきれないラインハルトが、夢で彼を諫めたキルヒアイスに呟きます。
「アイツは死んでまで俺に意見する……」と。
 聞いたヒルダはドン引きでしたが。

 

 ヒルダがキルヒアイスの役割を何割か担っているのは間違いないのですが、またまだ小娘と呼ばれる世代なのに結構なポジションにいて覇者(も若過ぎるのですが)のメンタルケアを担当するとか大変です。だからこその「キルヒアイスが生きていれば」なんでしょう。

 まあ他の人も「生きていれば」と何度となく思い口にし、ついでに彼の死の原因の一人であるオーベルシュタインを反感を持ったりします。
 特に提督達の中でもミッターマイヤーを筆頭に、配下になった経験があるワーレンやルッツ、直属の部下であったベルゲングリューンやビューローもそうですね。
 他にも同盟のヤンが、一度しか会ったことのないキルヒアイスを、存命していれば和平の架け橋になってくれたかもと評していたり。

 

 しかしボリス・コーネフの「いい人間は長生きできない」との感想がそのまま第二巻後半最後のそして作品最大の衝撃になるとは思いもしませんでしたね。

歴史に名を残し損ねた男

 銀英伝には目立ちはしたもののすぐに消え去った者は沢山います。少しだけ登場して後は名前が出ない者や、すぐに戦死してその後の出番は無い者です。

 無論、赤毛ののっぽさんのように二巻までの登場で名を残し、その後も作中で名前が記され、登場人物の口にものぼると言う有能・良キャラや、同じく二巻までの登場と思いきや、後半でも登場して名を残したフォーク准将という無能・ワースト代表もいます。

 

 そしてもし生きていれば大舞台で活躍もしくは華々しく散れた男が、グエン・バン・ヒューです。

 

 第十三艦隊がイゼルローン駐留艦隊として再編された際に着任したと思われ、アッテンボローとともに分艦隊司令官になりました。この時点で疲弊した同盟軍でも次代を担う提督としてのポジションにいたと思われます。

 ドーリア星域会戦では先陣を任せられ第十一艦隊の分断に成功しており、第八次イゼルローン攻略戦においてもケンプとミュラーの艦隊に打撃を与えてます。

 もしこのままヤンの配下に居れば、ヤン艦隊の矛として活躍し、バーミリオン星域会戦では派手に戦死するか生き残ってヤン不正規艦隊の豪快担当で、今よりもずっと人気が出たかもしれません。

 

 しかし不用意な追撃戦で戦死した結果、二巻で退場して帝国の双璧の引き立て役とヤンのユリアンへの説教ネタにされるというオチでした。

 

 ビッテンフェルトと比較すると、猪さんが持つ戦術上の見識や意外とある思慮深さが欠けており、単なる引き立て役になってしまいましたが、ヤンの配下として成長すればアッテンボローとは違った分艦隊司令官としてヤンの戦術に幅が広がったかもしれませんね。

査問会はえてして趣旨が異なってしまう。

 第八次イゼルローン攻略戦の間、ヤンはハイネセンで査問会を受けてました。査問会とは「あいつヤバくね。」という相手を取調べるものですからヤンが査問委員から高圧的な態度を取られるのは致し方ないところですが、如何せんフレデリカの記憶通り同盟軍に制度上は査問会が無いため、職権乱用?の疑惑もあるイベントです。

 そのため精神リンチに近いものが繰り広げられるという流れですが、如何せんヤンには通用せずに反論され、委員がストレス溜める事態に。

・親がクーデターを起こした副官をそのまま起用 → 何か問題でも?

・首都星を守る軍事衛星を全部破壊 → 何か問題でも?

・戦闘前に政府を軽んじる演説 → 何か問題でも?

全て理路整然と反論して粉砕しちゃいます。

 でも個人の尊厳を守るために必要でしょうが、これじゃあ全員を敵に回してしまいますね。ヤンにすれば「あんな奴らが味方になるなんてご免被る。」との心境でしょうが。

 実際に終わりなき査問会が続けられようとしてました。皮肉にもそこから救い出したのが帝国軍なので、敵がいる限りヤンには価値があると証明されてしまいます。

 結局、査問会はヤンが自分達にとって有益かどうかを調べるためのはずなのに、ヤンを懲らしめようとして、最後に帝国軍の登場でそれどころで無くなり解放するという醜悪さの極みを演じてしまいます。

 

 そういえばヤンが作成した辞表には何が書かれていたんでしょう。一身上の都合なんて穏便なことは書いてないでしょうし。そのまま持って解放された後はポケットに入れて忘れたとか。ユリアンが後で見つけて保管してくれれば後世の学者の研究対象になったでしょうに。 

魔術師兼ペテン師の真骨頂

 本人の自己評価とは異なり、軍人としては他者から絶賛のヤン・ウェンリー提督の渾名は魔術師またはペテン師と勇猛果敢が鑑とされる軍人には似つかわしくないものです。でもそれは戦闘において最大限に効果を発揮します。

・ヤン艦隊の動きがおかしいのはヤンの策か

・ヤン艦隊が動かないのはヤンの策か

・ヤン艦隊に動きがあればヤンの策か

と何をしても相手は疑ってしまいます。ここで生じた迷いは戦場では致命傷に成りかねず、実際にそれで敗北した者は数知れずです。

 

 本人自身が「ジャックと豆の木」を例に挙げて策略の醍醐味を語ってますから、戦争嫌いであるのに策略好きという人間には魔術師あるいはペテン師のあだ名は似つかわしいのかもしれません。でも戦う前は高揚のままにせっせと準備して勝った後は自己嫌悪に陥るというのは、普通なら精神面で病んでも仕方が無いのに平気なのは何故でしょう。ペテン師だからでしょうか。

 

 個人的には 戦略のペテンとして一番なのは、第九次イゼルローン攻略戦でロイエンタール相手に施したペテンを利用して、第十次イゼルローン攻略戦でルッツ相手にふざけた(褒め言葉)情報戦を仕掛けた上で、要塞を奪取する手法です。一個一個は戦術レベルの小技でも戦略拠点を自由に確保するという戦略構想は魔術師ならではです。

 戦術レベルだとバーミリオンで見せた「敵艦隊の側面を突いたはずなのに、いつの間にか包囲されていた」という某漫画のキャラに言わせたい神業ですね。最初からそのつもりでなければ不可能ですが、予定していても実行できるかと言えば無理な話。ヤンという柔軟どころか非常識な発想を持つ指揮官を得た名人フィッシャーが見せた究極の艦隊運動です。

 なお戦闘中に艦隊陣形を変えることは他の提督にできても、敵の攻勢を受けながら自在に陣形を変更できるのはヤン艦隊だけといってよく、ヤンとフィッシャーのコンビのみ成える魔術でしょう。

 

 奇跡を幾度と起こしたヤンの最後も意外なものですが、本人には不本意であるもののでそれ故に伝説として語り継がれ、不敗の魔術師・奇跡のヤンとして名が残ったのだと思います。

要塞対要塞は大艦巨砲主義の極致

 第八次イゼルローン要塞攻略戦は帝国側の奪還戦として始まりました。
ガイエスブルク要塞を用いての要塞による要塞攻略という手法で、帝国軍は艦隊拠点としてと共に、最大の攻撃力としても活用します。それが要塞砲「ガイエスハーケン」です。イゼルローン要塞の「トゥールハンマー」には劣るものの、万単位の艦隊の砲撃でも揺るがないイゼルローンの四重複合装甲をあっさりと突破して内部を破壊する威力です。なので、ケンプ大将がこの要塞砲と艦隊を駆使してイゼルローンを攻略しようとしたのは正しいのです。

 初回の少数の陸戦兵による内部侵入や続いての砲撃を目くらましとした艦隊接近攻撃など、要塞を有効に使い先手を取ってますので、戦法としても正しかったと言えます。

 

 ケンプ大将の失敗は、膠着状態に陥りそうな時に増援を求めなかった事で、同盟の増援を事前に把握した際に既存戦力だけで対応しようとして失敗したのは結果論でしかないでしょう。要塞への兵力増強を妨害する行動はあたりまえですし、数が少ない増援を先に叩くのは理に適ってます。成功すれば時間を掛けてイゼルローンを攻略するのが可能となりますので。

 イゼルローン攻略が成功すれば、今度はガイエスブルクを同盟領侵攻に使い無双していたかもしれません。まあヤンが碌でもない攻略法を考えつくかもしれませんが。

 

 いずれにせよ要塞対要塞は同盟側イゼルローンの勝利でガイエスブルクは盛大に爆発して宇宙の塵になります。でも艦隊巻き込んで消滅するなんてどんなサイズの融合炉だったのでしょうか。確かにイゼルローンにぶつければ一発ですよね。

 

 そんな事を出来るのはラインハルトかヤンぐらいですが。

 

 思いつく者はいても実行できるかどうかはありますが、ヤンは実際にアルテミスの首飾りで証明済みで、ラインハルトは決定できる立場でヒルダに明言しております。両者とも考えつき、実行できるとするのが妥当でしょう。

 

 そういえばOVA版でファーレンハイト提督の旗艦アースグリムが大口径砲を使用しました。一度消えた大艦巨砲主義を復活させてみた例かもしれません。もっともこれ一回きりでその後の同型艦で使用した形跡も無いとなると、有効性は乏しい兵器だったということでしょうか。(アースグリム自体は使用した会戦で撃沈されてます。)

なぜ帝国の門閥貴族は金髪の小僧に負けたのか。

 一方は軍務と戦場に耐えた者だけで構成された軍隊で、もう一方は下はともかく上は碌な軍歴無くとも個人で軍艦を持てる立場の門閥貴族。戦を知らない奴らが戦を知っている奴らに勝てると考えるのはお花畑の門閥貴族だけです。

 

 まあ話はそれで終わるのですが、たまにどうやったら勝てるのかという話題があります。でも、どんなに有効な戦略も自分たちの都合と妄想でぶっ壊すのが門閥貴族なので、すぐに詰みます。軍事専門家として無理やり迎えたメルカッツ提督の命令や提案を無視しているのですから。ラインハルトもメルカッツが手腕を振るえる環境では無いと判断して、総兵力で劣るはずの討伐軍を更に二分しても余裕でした。

 主力は敵の正面から侵攻して別動隊が周辺の敵対勢力を一掃する。楚漢の戦いで劉邦項羽と対峙している間に韓信が他を平定していった故事と似ております。

 反対に門閥貴族側はメルカッツは有利な拠点まで誘き寄せての決戦を提案しますが、勝手な連中のおかげで勝利の可能性も霧散します。ガイエスブルク要塞前面での戦いも、ガイエスハーケンを有効に使うこともなく誘き出されて叩きのめされて終了です。

 敵が馬鹿すぎるとありますが、その馬鹿が特権で大量発生して帝国が腐敗したというのが前提なので、愚かな描写は合っていると思います。後にミッターマイヤーが同盟領侵攻作戦でヤン艦隊にしてやられ続けた自分達を罵る時に「貴族のバカ息子共を笑えん」と言ったのは最大限の自戒だったのでしょう。

 

  歴史にifは無いように、銀英伝もifは二次創作の中だけですので、ここであーだこーだは言えません。一つあるとすれば「戦争ぐらい真面目にやろう」でしょうか。まあ滅んで当然の連中だったということで。

悲劇は避けられたのか

己の愚かさで親友を死なせた悔恨がラインハルトとその後の銀河の歴史に影響を与えたのは事実です。

傲慢で自己肯定の固まりな不可侵の存在になる寸前から、枕元に立つ友人の忠告を素直に聞く人民皇帝になる。その転機がローエングラム公爵暗殺未遂事件というわけです。

まあ枕元に立つとかオカルト要素が多分にあるので未来の宇宙社会でそれもどうかと思いますが。

で、悲劇は避けれたかというとキルヒアイスが銃を持っていれば確実に。なんせアンスバッハがハンドキャノンを棺から取り出して構えて引き金を弾くまでに接近して邪魔を出来たくらいなんですから。常にラインハルトの暗殺の危険を考慮していたキルヒアイスだからこそで、腕前も一流なので問題なく射殺。

生きていればラインハルトが感動して二人は和解、めでたしめでたし。そうならないのが現実(小説ですが)なのです。

 

しかしヴェスターラントは難しいところですね。ラインハルトが手を下したわけではない。でも見過ごした点、つまり黙認(黙って認めた)はキルヒアイスには許せないでしょう。私人ラインハルトも後ろめたさがあったので、過剰に反応したのでしょうし。反面、内乱終結の要因になったのは間違いないので、支配者ラインハルトとしては是とする(しかない)。

あとオーベルシュタインも「他に方法があったかもしれませんが。」と前置きするぐらいの事件だったり、後々の暗殺未遂事件でも復讐者に「薦めたのは私。私を狙えば成功したかもしれない。」といらない告白と煽り(それも他者がいる前で)までするのでオーベルシュタインも内心は思うところあった可能性はあります。

ラングみたいにこっそり被害者や遺族に寄付していたとか。元帥で軍務尚書なので物凄い高給取りだけど使い道は全くなさそうなので。

まあ結論は、悪いと思ったら素直に謝る、というのが唯一の回避策だということで。