ヤン・ウェンリーの評価(帝国編)

 ヤン・ウェンリーという人物は、大きな業績と比較して個人レベルではそれに合わない外見(容姿、言動、雰囲気)であり、更には内面は二律背反(戦争嫌いで戦争を評価しない、に関わらず戦争が得意で最大の成果を上げている等)を常に抱えた「矛盾の人」でした。
 このため評価は様々ですが、公然の敵であった帝国側はある方面で一致します。

 「ラインハルトに匹敵する軍事才能」の持ち主です。

 ヤンを倒すことが最大の武勲であり、対峙する帝国の提督達は彼への称賛を惜しみません。一方で下記の三人は上記のプラスした評価があります。

・ラインハルト 面白い人物、自分の強敵、常に意識、戦いたい、断られても麾下に加えたい

ヒルダ 政略や戦略では行動範囲が明確で対応が可能、ただし戦術レベルでは知略の底が見えず恐怖の対象

・オーベルシュタイン 屈しない、媚びない、同盟の求心的存在

 三人ともそれぞれの立場でヤンを評価しています。

 オーベルシュタインは、ラインハルトに「ヤンは陛下の臣下にならない」と明言しているので、思考の過程は判りませんが、正確にヤンの性格を捉えています。同時に臣下となればロイエンタールやミッターマイヤーを凌駕してナンバー2になる可能性があるとまで評価しています。
 自分の手に余るとまで考えているのであれば、ヤンを処分する案を献策したのも納得できます。

 ヒルダは、これまでの行動からヤンの行動原理を把握しています。特に巨大な武勲とそれに憮然と眺める彼の姿などは、ほぼ正鵠を得ています。同時に自分が計りきれない戦術家としてのヤンについては恐れがありました。いたずらに軍事力を用いるべきでないとの考えと合わせて、ラインハルトに戦うべきでないとも進言しています。

 ラインハルトになるとより複雑です。姉と我が友以外に唯一こだわる対象。常に意識している存在。戦いたくもあり、仲間にしたくもあるライバル。なおヤンの死後、急に倒れることが増え、衰弱死、最後には死に至ります。

 ヤンがもし自分の評価を個別に聞いていったら、どれもこれも過大評価だと頭を描いて溜息をつくでしょう、「やれやれ」と。
 あとメックリンガー提督は学者肌芸術家であることから、少しだけ違った評価をしています。

ヤン・ウェンリーの偉大さは彼の予測範囲内においてのみ、敵に行動あるいは選択させる」

 つまりヤンは舞台監督で、彼の脚本で帝国の提督達が部隊の上で踊らされるのだと。芸術提督らしい表現であるとともに、イゼルローン要塞攻略や帝国の同盟侵攻作戦での連戦、そして回廊の戦いなどヤンが能動的に動いた戦いで見せたトリックの根底を的確に言い表してます。

 生前は同盟軍=ヤン、死後は共和制の象徴と帝国軍から最高の評価を得た男は、自分を評してこう言いました。

「我ながらだいそれたことをしているよ」

 誰よりもヤンを評価したラインハルトと配下の提督達。ヤン個人がほぼ語り合うことの無かった人々ですが、戦場で戦うことがある意味で、交流であったのかもしれません。