野心家でありながら清廉潔白で民衆に優しい独裁者ラインハルト。当然ながらそんなお題目は脚色で、彼の手は流血と陰謀で赤黒く染まっています。
宇宙歴798年。帝国とフェザーンの共同作業である皇帝誘拐事件が実行されました。同盟への開戦の理由を作るための謀略で、誘拐犯の仲間である自由惑星同盟最高評議会議長の声明直後に、宣戦布告する用意周到ぶり。
元はフェザーンからの提案とはいえ、ラインハルトはあっさりと乗っかることを選択します。策謀家のフェザーンの黒狐と手を組むのですから、ラインハルトもこの時点で十分黒いです。
なお主導権を握ろうとしたフェザーンに対しては、「3勢力のうち2勢力が組むとき、必ずフェザーンが組む側だと思うなよ」と釘をさします。
ついでフェザーンが実行犯を消すことを懸念してオーベルシュタインに監視ともしもの時の対応を命じます。もちろん利用するためで人道主義ではありません。
さらには元帝国副宰相ゲルラッハもついでに、皇帝誘拐の共謀容疑で処断してしまいます。
あと帝宮の警備責任者モルト中将を自死に追い込んでます。
もう前段で真っ黒黒です。
擁護するなら、ラインハルトは為政者としては信義を重んじる態度であり、大義名分が無ければ同盟に攻め込んだりは・・・あっ、その前にガイエスブルク要塞を送り込んでますね。
そういえば、組んだはずのフェザーンは騙して、奇襲で占領して自国に組み込みましたね。ボルテックがルビンスキーを裏切ったとはいえ、これも悪辣です。
えー、もう完全に帝国の悪の征服者です。
それにしても同盟側は梯子を外された被害者ですが、一方で帝国の反動勢力であり人民を500年近くにわたり抑圧していた皇帝と貴族達と手を組む行為はまさしく悪役。
人類史は「少数の善人と、それ以外の多くの悪人達で成り立っている」と感じさせる一幕でした。ちなみにこの件はラインハルト自身が中心となって計画を進めており、オーベルシュタインよりもラインハルトのほうがよっぽど黒かったです。
互いに正義を名乗る悪同士の戦いの始まりとなった皇帝誘拐事件。続く侵攻作戦「ラグナロック」のきっかけで地味な面はありますが、二ヶ国の滅亡と銀河の統一に至る、まさしく歴史が動いた瞬間でした。