ワルター・フォン・シェーンコップの紳士的野蛮性について

 登場人物の中でも戦場でも後方でも特筆すべき勇者ぶりを発揮したのがワルター・フォン・シェーンコップ氏。

 戦場では指揮官としても装甲服をまとった戦士としても一流で、司令部では独特のポジションで毒舌を披露して、後方では相手に困らずの無敵ぶり。一部から非難とやっかみを浴びつつも平然と自分のペースを崩しません。普段はあくまで紳士的、しかし猛獣の眼光で相手を圧して、発言は穏当ではなく常に危険な言葉を平気で口にします。

 

「もし私が裏切ったらどうします」

「こいつは戦闘と呼べるものではありませんな、閣下。一方的な虐殺だ」

自由惑星同盟の自由はどちら(思想と言論)に由来するのですかな」

「さあ、命令しなさい。そうすればあなたは三つのものを手に入れる」

 

 四つ目は最後の一線を大股で超えており、衆人環視で禁断の果実をもぎ取っちゃいました。ヤンがそれを食べなかったのが奇跡なぐらい、甘美な果実でしたから。

 一度一線を越えた男には怖いものなく、同盟から離反する際にも生き生きと不正規活動を行い、反乱組織でも地位を確保します。同盟や帝国という巨大組織の枠組みよりも、群雄割拠の時代が似合うタイプです。

 日常でも常に余裕を持ち、慌てるとか窮する姿は絶対に見せません。アッテンボローからの理不尽なクレームも「俺としては、何も悪いことをできなかったような甲斐性なしに、30歳になってもらいたくないね」と軽くあしらいます。隠し子が見つかっても「あいつはいい子だ、1ディナールも養育費が掛からなかったから」と良識家から一斉に非難されそうな物言いです。

 もっともヤンが披露する魔法には流石のシェーンコップも驚きの表情を浮かべますが、彼がヤンに従う理由の一つかもしれません。イゼルローン要塞攻略時やラグナロック作戦を破る唯一の方法を聞かされた時などですね。

 

 軍隊の枠の中だからこそ紳士的に振るまえるという危ない男シェーンコップですが、娘との絡みでさらに幅を見せました。緊張するカリンに「子供を産むのは、20歳をすぎてからにしてくれ」といってユリアン共々赤面させたり、「ものわかりの悪い父親になって、娘の結婚をじゃまするという楽しみができたからな」と軽く悪ぶってみたり。そんな彼もまるで先の発言が死亡フラグのように壮絶な最後を迎えました。

 数々の名言があるシェーンコップ。もし自身に自信があるのなら真似してみてはいかがでしょうか。敵を作り過ぎぬよう、ほどほどにとなりますが。

 なお私が選ぶ最高に彼らしい表現は「エキジビジョン・ゲームは二流俳優にまかせて、名優は皇帝陛下御前興行に出演するさ」です。