ジョアン・レベロ氏の生き方と死に方

 自由惑星同盟の政治家で、同盟政府最後の最高評議会議長であるジョアン・レベロは、潔癖であるがゆえに晩節を不本意なかたちで過ごし暗殺された悲劇の政治家です。

 財務委員長を務めた経歴からも財務・財政に強く、その視点から同盟が困窮のふちにいると知っており、帝国との停戦や講和に賛成する穏健派でもありました。

 また汚職に対して潔癖で、交友関係もホアン・ルイやビュコック提督と信頼できる人物と繋がりがあり、やや堅物な面があるものの公明正大な政治家として知られていました。

 降伏に近い講和後に評議会議長の座についたのも、自由惑星同盟を存続させるべきという使命感からであり、権力への思いからではありません。周囲に恵まれなかった点も人材不足の同盟では同情の余地があります。

 軍のトップは統合作戦本部長のロックウェル大将で、もとはトリューニヒト派です。ブレーンとなったハイネセン国立中央自治大学学長のエンリケ・マルチノ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラもトリューニヒトと繋がりが強く、主戦派を学術・教育面からフォロー、政策ブレーンとして活動してきた人物です。
 両者とも自己の保身を優先させる人物であったため、頼りにしたのが間違いなのですが。

 もし同盟軍は統合作戦本部長ビュコック元帥、宇宙艦隊司令長官ヤン元帥の布陣(運営はキャゼルヌ後方勤務本部長とパン屋の2代目参謀長)で、閣僚はウォルター・アイランズが燃え尽きずに国防委員長をそのまま務めて、元トリューニヒト派とレベロの橋渡しとなり政府を運営できたのなら。

 少なくとも短期間に帝国の再侵攻を招くことはなく、ラインハルトの病状悪化による事態打開の可能性があったかもしれません。

 また作中であるようにレンネンカンプの暴走を皇帝に訴える明敏さや、ヤン逃亡後は早々に公表してヤンの追撃を同盟で行う旨を帝国に伝える図太さ、もしくはヤンの捕縛を帝国に頼む厚かましさがあれば。
 貴重な戦力を割きヤン・ウェンリーに事後を託したチュン・ウー・チェン参謀長のように、自由惑星同盟の終焉を認めることができたなら。

 しかし、どれもなされず無為に時間を浪費した挙句に皇帝の宣戦布告を受ける、それも真実のおまけつきで同盟政府の権威は完全に失墜させられました。

 なおこの一手だけでもラインハルトの政治センスが光ります。常に主導権を握り戦端を開く前に自軍の優位さを確保する手腕で、開戦後は軍事に専念でき勝利を掴みやすくなるという鉄板のルーチンです。

 レベロは最後まで仕事を放棄しませんでした。無精卵を温める行為と評されましたが。アイランズとは逆に半世紀の評価を半年で台無した人物として、最後は暴走した一部の軍人に殺害されます。

 

 本来であれば民主主義に殉じた人物として後世に名を遺こすべきジョアン・レベロ。人が己の何かを曲げた時に起こる悲劇を体現したのが彼かもしれません。