裏方的な地味な仕事の重要性 補給と後方支援は大事です

 派手な突撃よりも、目立つ逆転劇よりも、威力絶大な要塞砲よりも、目立たぬ補給や後方支援が大事だと語り続けた銀河英雄伝説。補給や後方の問題が戦局に影響を与えるという、ごく当たり前の事象を普通に描いているのも特徴といえます。

 実際にラインハルトもヤンも、相手の補給に負荷をかける作戦を実行しています。仕掛けられた側は補給の問題で大敗したり、戦略を変えさせられており、重要性は明白です。反面、物資の輸送業務は派手な武功よりも地味なためか軽視される点があり、上記で仕掛けられ二人の提督は油断で大失敗を犯しました。

 帝国侵攻作戦で五千万人分の民間人と三千万人の遠征軍の食料や日常品の輸送に失敗した同盟のスコット提督と、帝国のラグナロック作戦で自らかって出た護衛任務に失敗、あっさりと輸送船団を撃破されたゾンバルト少将です。

 前者は占領地とはいえ、帝国領内をたった26隻の艦艇で100隻の輸送船団を率いた提督です。豪胆なのか楽天家なのかと問われれば、考えていないだけ、と皮肉が出そうなぐらい適当な態度で任務に望み、奇襲を受けた時には艦橋におらず部下と遊んでいる徹底ぶり。同盟補給部隊を探していたキルヒアイス艦隊の攻撃を受けてあっさり戦死、艦隊は全滅となりました。

 この時、キルヒアイス艦隊の損害は戦艦1隻が中破、ワルキューレが14機です。詳細は判りませんが、敵に緊急通信の隙を与えぬために、ミサイル攻撃と同時に艦艇を突撃させて完全破壊を狙ったのかもしれません。

 後者は自分を売り込みたいと焦り、不得意であろう任務についてしまいました。240個のコンテナを800隻の巡航艦と護衛艦で守りつつイゼルローンからウルヴァシーに輸送する任務です。
 ミッターマイヤーが自ら志願するほど重要な任務でしたが、ゾンバルト少将には退屈で簡単な仕事に見えたのかもしれません。敵の襲撃を常に警戒して航路の安全を確保して進むべきだったのかもしれませんが、ヤン艦隊に発見され全てのコンテナを破壊されてしまいました。

 この時、兆候を感じたラインハルトは麾下のトゥルナイゼン中将を救援に向かわせています。それほど大事であれば一個艦隊でも動かせば、との意見はありますが、これもまた難しいのでしょう。

 まず第一に目立ちます。一個艦隊規模の大規模な輸送艦隊など捜索網に簡単に引っ掛かってしまいます。また艦隊規模の艦艇数の移動には時間がかかるもので、そこに足の遅い輸送船団を伴っていれば移動は更に遅くなります。小規模な艦艇でかつ目立たぬように移動するスタイルが主流だったのでしょう。

 任務に失敗した両提督は、不運だった面もあります。最初から補給部隊に狙いを定めていたキルヒアイスとヤンが相手ですから。それでも慎重にことを進めるべきであったのは間違いありません。

 大遠征中にやらかした二人。それぞれ戦死と自殺で退場となりました。同盟の帝国侵攻の失敗も、バーミリオンでのライハルトの敗北寸前も彼らだけのせいではありませんが、輸送船団が壊滅が引き金になっています。

 以上の二人は失敗した側ですが、反対に帝国同盟の両方に自らの仕事を成し遂げた者がいます。補給や後方支援のような地味な仕事をやり遂げて地位を得たのは、帝国ではアイゼナッハ提督で、同盟ではキャゼルヌ中将です。

 アイゼナッハ提督は沈黙提督の渾名の通り口を開かず、黙々と後方支援等の地味な仕事をこなします。その結果、あのオーベルシュタインが認めるほどの信頼を得てラインハルトの麾下となり、最終的には元帥職を得ます。

 一方でキャゼルヌ中将は完全な事務方で、補給や後方支援の計画や立案、運用の責任者として活躍します。特に軍事に必要な物流のスペシャリストで、必要なものを必要な時に必要なだけ用意することができます。帝国侵攻作戦での補給計画の立案や運用、イゼルローン要塞の官民合わせて五百万の都市行政などを任された、同盟きっての軍務官僚です。

 この二人の特徴は、一人は口は滅多に開かず、もう一人は毒舌使いですが、自身の仕事を着実に遂行した点です。アイゼナッハとキャゼルヌ、両雄への貢献度に差はあるかもしれませんが、二人の裏方は間違いなく二人を支えていたのだと考えます。