名将メルカッツは堅実で間違いない戦をしますのでお手本にしましょう。

 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ提督はゴールデンバウム朝銀河帝国の末期に、名将として名をはせた人物ですね。適切な艦隊運用と的確な攻撃、臨機応変に戦術を駆使しても定石を崩さずに勝利してます。

 アスターテでは第六艦隊への先制攻撃で的確な砲撃を行い危なげなく勝利、リップシュタット戦役でも自身の管制がきいたシャンタウ星域ではロイエンタールを撤退に追い込んでいます。ガイエスブルク要塞宙域での戦いでも、優位に立ったラインハルト陣営の艦隊を小型艦艇を用いた戦法で損害を与えてます。
 これは主力の戦艦や巡航艦群がブラウンシュヴァイク公と共に出撃してしまい、残存兵力が直属の少数の兵力と豊富な小型艦艇群しか残っていなかったための戦法です。もしメルカッツ提督の手元に一、二個の艦隊でもあれば、損害は桁違いになっていたでしょうから。

 この後も第九次イゼルローン攻防戦や回廊の戦い、第十一次イゼルローン攻防戦、シヴァ星域会戦でも的確な艦隊指揮でヤンやユリアンを支え続けました。

 特に回廊の戦いではファーレンハイト艦隊やシュタインメッツ艦隊に大損害を与えており、結果二提督が戦死しています。この時、メルカッツ提督は分艦隊としてヤンの指揮下にあっても、アッテンボローやマリノがヤンの管制下で戦うのに対してヤン本隊と連携して敵にあたっていました。ヤンが全ての線戦を個々に細かく見るのは不可能である以上、このメルカッツの安定感はヤン艦隊にとって貴重なものだったと思います。

 なお作中では地味だったのはヤンの傍らにいたバーミリオン星域会戦の時です。銀河帝国正統政府にいたメルカッツは、バーミリオン会戦前にハイネセンに戻ったヤン艦隊と合流しました。でも麾下の戦力はたった六名で艦艇も無いため、司令部でヤンの補佐をすることになります。
 分艦隊指揮官には元々アッテンボローとマリノがいますし、また第14艦隊のモートン提督と第15艦隊のカールセン提督は一個艦隊の司令官でした。これだけそろっていると、一万六千隻の戦力では特に指揮する艦船はありませんでした。

 だからこそ、もしメルカッツが分艦隊を指揮していたら、と想像してしまいます。

 ミュラー参戦前、いや参戦後でも帝国主力包囲後の苛烈な砲撃戦をもっと早くに制して、同盟軍の艦隊が帝国軍の本営に肉薄していたのでは、と考えなくもありません。

 もちろん既に編成を済ませた部隊の指揮官を、急に変えるなど利よりも害が大きいのでありえませんが。

 いずれにせよ後世でも教科書に載り、艦隊戦のお手本となったメルカッツ提督。ビュコック提督を含め、彼のような老練な人物の活躍する場があることも銀英伝も魅力だと思います。