ヤン・ウェンリーの戦略面の技能について

戦術面でほぼ無敵を誇ったヤン・ウェンリーですが、戦略眼もある人物とされる一方で戦略面での成果はほぼ無いため、「本当は大したことはない」「過剰な評価」だとの批判も受けております。

本人が口にした「半数が味方してくれればいいほうさ」の精神であれば、戦術面での評価で軍人としては十分でしょう。いや「戦争が上手い」自分を全く評価しないヤンにしてみれば、己の軍事的才能の評価など、本当はどうでもいいかもしれません。

敢えて弁護するなら、そもそもヤンの同盟軍での最高位は艦隊司令官や要塞司令官であり、一つの戦略単位のトップでしかありません。つまり戦略面はより上位の統合作戦本部が考えることで、ヤンは配下の艦隊や要塞をいかに戦術面で運用する権限しかありませんでした。

唯一、チェン参謀総長が発した「イゼルローン艦隊を自由に動かしてよい」との命令のおかげで発動できた、帝国侵攻軍に対する「戦術的勝利を積み重ねて戦略的勝利(帝国軍の退却)を得る」作戦のみが、同盟軍時代にヤンの戦略構想を具現化した内容でした。

それでもヤンの戦略面の見識の高さは、随所で表されてます。

第7次イゼルローン攻略戦前にシェーンコップとの会話で、ヤンはイゼルローン要塞を奪取した場合「帝国軍は進攻のほとんど唯一のルートを断たれる」と説明しました。シェーンコップも気が付かなかったのですが、”ほとんど”と入れたのは帝国軍がフェザーン回廊から侵攻する可能性をヤンが考えていたからこその言葉です。

ラインハルトが食後のデザート替わりに準備した同盟のクーデター。ここでもヤンはラインハルトが帝国の内戦に集中するため、事前に同盟へ策謀を仕掛けることを想定しました。そのためビュコック司令官に捜査の依頼とともに「クーデター勃発時は鎮圧命じる」命令書を依頼しました。おかげでヤンは正当性をもって自由に艦隊を動かすことができ、クーデター軍を鎮圧することができました。

ラグナロック作戦発動時には、帝国とフェザーンの共闘まで推理しました。その上で統合作戦本部にフェザーン回廊からの侵攻に備えるように進言しており、第9次イゼルローン要塞攻防戦のロイエンタール軍を陽動だと考え兵力を温存しました。

イゼルローン離脱後は戦術的勝利で戦略的勝利を得る方法をアイランズ国防委員長に説明、正規の作戦として了承を得ています。また戦略目標であるライハルトをバーミリオン会戦に引きずり出し、あと一歩まで帝国軍を追い詰めました。

末期の同盟は軍の戦略面よりもその上位の政府の政略面で問題がありました。同盟はヤンの権限の及ばない所で敗北したため、ヤンに責任の所在を求めたり、能力を疑うのはお門違いというしかありません。

なお同盟離脱後は自由に手腕を振るえるようになると、戦略的観点からイゼルローン要塞を攻略します。将来を見越して仕込んでおいたイゼルローン要塞の制御キーを使い要塞を奪取、エル・ファシルからイゼルローン要塞までの解放回廊を構築しました。

要塞の攻略方法は戦術どころか詐欺そのものでしたが。

ヤンは戦略面も一定の見識があるものの、それを一部披露するのにとどまり発揮できる環境ではなかった。これが事実ではないでしょうか。